高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営品質の散歩道 3.戦略とプロセスイノベーション

 11月に大阪にゆく仕事があった。ちょうど、その前日が祝日だったので、かねてより訪ねてみたかった東大阪の司馬遼太郎記念館に立ち寄ってみた。建物の設計は、かの有名な安藤忠雄さんだそうで、展示されていた建築設計図を見てみると、ある1点からコンパスで複数の円を描いた放射線上に建物や植樹が幾何学的に配されていたのが、印象的だった。

 司馬遼太郎記念館は、いつか来てみたかったところである。道中、彼の最終執筆物となった『街道をゆく43:濃尾参州記』を読みながら来た。そのせいもあって、地下1階メインフロアーの書庫に並んでいる『名古屋叢書』や『徳川家康公伝』などの徳川家康関係の蔵書が目に飛び込んできて、なんだか嬉しかった。蔵書巡りをしているうちに、『古典落語体系』も、街道をゆくシリーズのどこかで出会った書名の記憶がある。司馬さんは、これらの資料を読みながら、あの街道をゆくシリーズを書いたのだなと、思わず感傷的になってしまった。

 さて、織田信長のことである。彼は尾張衆をひきい、勝ちがたい敵とされた今川義元の軍に挑み、ひたすら義元の首一つをとることに目的をしぼり、みごとにその目的を達した。経営でいうところの「戦略は選択と集中」という言葉が、ぴったりとあてはまる歴史的な実践事例であろう。さらに信長は、旧習の不合理を憎み、強烈な自己流の合理主義をもって物事を我流に変えた。たとえば、貴族文化である放鷹(ほうよう)は服装やマナーにうるさいものだったが、単に鷹狩りではないか、であれば獲物を多く獲ればよく、服装も仕掛けも変え、みずから猟師のようになって山野を駆けた。そのうわさが武田信玄に届いたときに、信玄を考え込ませたと、司馬さんは書いている。

 長めの槍を持たせた足軽集団も、槍先が相手に早く届くアイデア武器として、この時代では特徴のあるものだったらしい。義元を破ったときの騎兵の集団運用による奇襲戦術といい、いわゆる「プロセス・イノベーター」だったのだろう。そのようにして、三河や濃尾の兵と比べると惰弱な尾張兵をもって、強力な軍団に育てあげた。「良い(変革)プロセスが良い(卓越した)結果を生む」という、経営品質のセオリーも窺われよう。そのうえ、若いころの奇跡ともいうべき義元襲撃の勝利を、ついに生涯みずから模倣しなかったことでも凄みがある。経営の視点からも、教訓になるところだ。「過去の成功体験におぼれる」ことによって事業を危うくするといった経営者の話を聞くにつけ、そこが信長の偉いところだと、司馬さんも述懐していた。そして、その翌年2月に、司馬さんはこの世を去る。

 余談だが、義元の祖のなかで、出色の人物だったのが室町初期の今川了俊(りょうしゅん)である。彼には著作が多く、「今川状」というのも了俊の文章である。弟の仲秋を訓すという形式の家訓の書で、当時としては優れた日本語の見本というべき文章だったと、司馬さんは紹介している。やがて、民間にまでいきわたり、児童が学ぶ寺子屋の教科書にもなった。江戸初期には女子教育のための「女今川」もでき、「今川で、さらした嫁は、灰汁(あく)が抜け」という川柳にもうたわれた。あの嫁は、さすがに女今川をよく読んだだけに違っている、という意味である。経営品質に関わっておられる諸氏にも、「さすがに経営品質をよく知っているだけに、経営のセンスも人物の品格も違うね」、と尊敬の念で語られていることを信じてやまないところだ。

参考:司馬遼太郎(2009)『街道をゆく43<新装版>濃尾参州記』朝日新聞出版

以上

経営品質の散歩道 2.理念と存念について考える

 高校生の時分から、鎌倉に行くのが好きであった。東京から電車で1時間くらいということもあり、気軽に行ける観光古都の地ともなっていたのであろう。鎌倉への道中、鎌倉を舞台にした本やガイドブックを読み、ペンタックスの一眼レフカメラを携えて、四季おりおりの風景を楽しみながら、多くの寺社を訪ね歩いた。

 その鎌倉の寺の中で最も印象に残っているのは、松葉ヶ谷にある妙法寺という古寺である。裏山に続く苔むした石段が有名で、新緑のころには、シャガの白い花が緑の草むらの中に映えていて、寺全体の凛とした空気を醸し出していた。当時の住職は、どこかの大学で教鞭をとっていたような記憶がおぼろげながらあり、初夏のころに伺うと、学生と思われるグループと一緒に、草取りをしていたイメージが残っている。

 鎌倉にまつわる本が、本棚にある。その1冊が司馬遼太郎の『街道をゆく42:三浦半島記』である。鎌倉は、いうまでもなく源頼朝が幕府を開いた古都である。その頼朝には存念があったと、司馬は言う。存念とは、経営品質の用語で言えば、「理念」「あるべき姿」とも言い換えることができよう。彼の持っていた存念とは、大きくは律令制国家から武士団の利益をまもり、小さくは武士団相互の紛争を公平に裁くということである。そのためには、征夷大将軍にならなければならなかった。その職には、辺境の政治について専決権がゆるされるのだと、司馬は述べている。

 そして、その存念は、頼朝の死後、幕府の基本法のようにして残された。ただし、それを理解しているのは、ごくわずかな人達だけだという思いが、妻の政子にあったという。自分と、実家の父の北条時政、それに弟の義時ぐらいのものではないかと、政子は思い込んでいたのだそうだ。頼朝の脳裏にあった武家政権の理念は、その死後、尼になった、ときには「尼将軍」などといわれた北条政子と、その弟の義時が、たれよりもよく理解していたとすれば、政権が北条氏に移ったのは、当然だったような気がする、と司馬に言わしませている。

 つまり、経営理念という抽象概念が、幕府政治というリアルな組織的生き物を引導することができたと言わざるをえない。いわゆる、価値前提の経営を実践したとも言えるのではないだろうか。この理念というものは、とくに経営品質ばかりの話ではない。鎌倉における頼朝の存念を読み返しつつ、組織経営における理念の持つパワーと重要性というものを、改めて認識させられた思いがした。

 余談になるが、この本には、当時の経済観念らしき情景が、青砥藤綱の逸話で紹介されている。ときに、よく治まったといわれる北条時頼の世である。藤綱は、名吏として知られた財政家であり、訴訟の公平な裁き手としても名を馳せていたことが太平記に残されているという。急ぎの用ができたのであろうか、藤綱は夜中に役所に行く途中の橋の上で、いまでいう財布から銭十文を川に落とした。たかが十文であったが藤綱はあわて、人を走らせて銭五十文で松明十把(じゅっぱ)を買わせ、川を照らして十文をさがし獲た。

 この話を聞き、役所の人々が笑った。つまり、藤綱さん、四十文の損じゃありませんか。それに対して藤綱は、「あなたたちには、経世のことがわからない」と応じたという。四十文の損は個人の経済であるが、川に銭十文を失うは永久に天下の貨を失うことにある。さらにいえば、銭五十文を松明の代として散じたのは、そのぶんだけ世を賑わせることになる、と言ったという。

 以上が、いまでもある青砥橋に因んだ逸話であるが、経済という原理に思いを馳せさせてくれた、妙に印象に残る話ではあった。

参考文献:司馬遼太郎(2009)『街道をゆく42<新装版>三浦半島記』朝日新聞出版

(以上)

経営品質の散歩道 1.リーダーシップと方針展開を考える

 早いもので、今年も押し迫ってきた。年末という気分でもないが、本棚の資料を整理しようと思い立った。いざ作業を進めてみると、なかなか容易ではない。そこで3つに分類をしてみた。ひとつ目は、どうしても捨てられないもの。ふたつ目は、文句なしに手放しても良いもの。そしてみっつ目は、実はこれが一番決断に悩むところだったが、捨てるには惜しいと思えるものだ。結局は本棚から取り出しては、また本棚に戻すというものが多かったのであるが、そんな作業を繰り返しているうちに、はたと思った。捨てるのは簡単でいつでもできるが、いまいちど目を通してみて、乱読のすえにその本と出合った痕跡を残しておきたいという思いである。

 考えてみれば、毎日、経営に関わる書物や記事、論文や学生の原稿を読んでいると、情緒のある読み物に触れたくなる。とりわけ、司馬遼太郎や池波正太郎、それにコナン・ドイルが好きである。特に仕事に疲れた出張帰りには、何度も同じ本を買ってしまい、帰路の道中では読んでは頭を休めている。そのようなわけで、さっそく本棚から1冊の文庫本を取り出して、この原稿を書き始めることにした。最初に手にしたものは、筆者の勤務していたフィリップス社の本拠地に因んで、オランダの会社について書かれていた司馬遼太郎の『街道をゆく30:アイルランド紀行1』である。

 司馬によれば、ゲルマン系のオランダ人は、16世紀、世界史上最初に“ビッグ・ビジネス”という無形の文明能力を獲得した人々で、営利という一目的に対し、機械のように人間たちが部品化し、自分のポジションを心得つつ、組織を稼働させてみせるという芸をやってのけたという。16世紀のオランダ人の文明史的な大発明で、この芸当は、たとえばおなじ世紀のラテン系のスペイン人たちには望むべくもなく、ときあたかも、社会は個々の自律を要求した。たとえば銀行の書記たちが、たとえ一人でも自律的でなくなれば銀行業務という機械運動はストップせざるをえない。

 その16世紀に、スペインの無敵艦隊が英国海軍に破られた。以後、スペインは世界から衰退する。同時に、世界はビジネスができる国と、そのことが苦手な国にわかれるようになる。この時期、英国はすでにおこりつつあった産業によって、ビジネスという無形の文明的な“作用”を獲得しつつあった。英国海軍が強かったというよりも、ビジネスが海軍にまで及んでいたと解するほうがいいと、司馬は述べている。

 後年、19世紀の初めに英国艦隊のネルソン提督がナポレオンとスペインの連合艦隊を破った戦いでも、英国海軍の艦長たちがネルソンの意図や主題をよく理解し、そのつど察し、手足のように動いたことが、かれらのビジネス文明の大いなる成果であったろうと思われる。このことは、筆者が学ぶ経営品質やマネジメントシステムの「リーダーシップ」や「方針や戦略の展開」といったあたりの実践事例とも言えるであろうか。そして、英語の教科書や参考書で著名な、ネルソンが艦上で被弾して死ぬ最後のことば“I have done my duty.”は、英雄というよりも忠実に職務を果たしたビジネス人のことばに相応しい。

 余談だが、アイルランドといえば、忘れてならないのはビートルズの存在である。アイルランド人が吐き出すウイットあるいはユーモアは、死んだ鍋と言われる。相手はしばらく考えてから痛烈な皮肉もしくは揶揄であることに気づく。ビートルズがアメリカ公演したときの記者会見で、「ベートーグェンをどう思う?」と聞かれたリンゴ・スターは「いいね、とにかく彼の詩がね。」と答えて記者の幼稚な質問を愚弄している。MBE勲章をもらったときに旧軍人たちが抗議のために勲章を返上したときにも、「人を殺してもらったんじゃない。人を楽しませてもらったんだ。」とジョン・レノンが答えたそうだ。なんだか、江戸っ子のきっぷの良さとやせ我慢の風情につながるような気もして、良い心持と後味のある逸話ではないだろうか。読者の意見を待ちたい。

(参考:司馬遼太郎(2011)『街道をゆく30<新装版>愛蘭土紀行Ⅰ』朝日新聞出版)

(以上)

<バランススコアカード / リスクマネジメント公開セミナー>

高橋義郎の公開セミナーです。皆様のご来場をお待ちしています。

◆開催日時 : 2016年8月31日(水)
                第一部:9:15~12:30、第2部:13:30~17:00

◆開催会場 : 江戸東京博物館(両国)学習室1

◆プログラム: 第1部:マネジメントシステムの有効性を高めるバランススコア
            カードの実践的理解と活用

        第2部:ISO31000 をベースにしたリスクマネジメントの理解と
            マネジメントシステムでの活用

◆参加費用 : 第1部・第2部受講(8,000円)
        第1部または第2部のみ受講(5,000円)

◆お申込み : (株)渡辺コンサルティングオフィスまで
        URL : http://www.wco9001.com

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なぜ中期経営計画に市場・顧客の視点が見えないのか?

 やはりB2B型ビジネスの伝統的製造会社では、市場や顧客の視点を考えるのは無理なのかな?、と思いながら、某社の中期経営計画を眺めていたことがある。7月半ばにコメンテーターとして参加した、大手企業の経営企画部門が集まった会合での話だ。その会社は、卓越したエクセレントカンパニーを目指すことを中期経営計画に謳っているのであるが、例えば、ビジネスエクセレンスモデルやバランス・スコアカードのフレームワークに照らし合わせてみると、財務、変革プロセス、人財などの視点は明らかになってはいる。しかし、残念なことに、市場と顧客の視点に関する計画や目標が、あまり見られないのである。

 全く市場や顧客の視点が考慮されていないわけではない。例えば、その企業の中期経営計画では、「開発段階においては市場・顧客ニーズを的確に捕捉する」「顧客ニーズの多様化への対応」「市場・顧客に密着した開発の強化」「研究テーマ立案時の市場・顧客ニーズの視点の強化」「顧客の要望に応え最も優れた製品・サービスの提供」などの言葉が紙面に謳っている。にもかかわらず、中期経営計画の事業基盤としては、財務、モノづくり (変革プロセス)、人財の3つだけが掲載されているのは、ちょっと寂しい。それらに加えて、市場・顧客の視点として「マーケッティング基盤」とも呼ぶべきものを加えても良いのではないかと思うのであるが、どうだろうか? そうすれば、株主、社会、顧客、ビジネスパートナー、従業員などのステークホルダーを網羅できる事業基盤になるのではないか。そこに全体最適化経営のヒントがあるように思えてならない。多くの企業がホームページに中期経営計画を公開しているのは、株主向けのIRが主な目的と思われるが、そのため、戦略もよく分かるようになっていることが多いので、経営戦略に興味を持つ筆者にとってみれば、非常に有難い情報原といえる。

 そんな事をぼんやりと考えていると、7月23日付の日本経済新聞に日産化学工業を取り上げた「発掘・強い会社」の記事が目を引いた。渋沢栄一が作った老舗だそうで、同社の2017年3月期の純利益は4期続けて最高の見通しだという。快進撃を続ける秘密は世界有数の「化合物図書館」と呼ばれる同社の生物科学研究所で、所蔵する化合物は約40万点。いまでも年に5000点以上増え続けているそうで、欲しい化合物の名前をパソコンに打ち込むと、実物を自動で取り出せるという。化合物は複数の元素が化学結合によってできた物質だから、化合物のサンプル数が多いほど、新製品に結びつく種がたくさんあることになる。言い換えれば、組織の能力、BSCで言えば学習と成長の視点に該当する要因であろう。それに加えて、経営的に苦しい時期でも、高分子技術に詳しい技術者を残したことも、その要因に貢献していると言えよう。

 ところで、市場・顧客の視点のことである。この新聞記事によると、日産化学工業はどれもニッチだがシェアが高く、利益への貢献度が大きい成果を生んでいるとのことだ。ROEも14%強と高いレベルである。規模は小さいが収益率は高い企業なのだ。同社が標榜したスローガンは「祈りを掲げてテイクオフ」。その市場・顧客の視点として目指すところは、時代の変化に合わせた事業ポートフォリオの組み替え戦略」といったあたりが該当するのではないかと思える。単なる顧客重視の心構えというものではなさそうである。

 もしバランススコアカード(BSC)の「4つの視点」の因果関係が経営の全体最適化をガイドするフレームワークのひとつだとすれば、同社におけるBSCの「4つの視点」の因果関係は、次のように構成されるのではないか。読者の意見を待ちたい。

<財務の視点>
・連続最高益の更新
・規模は小さくても収益性の高い経営構造の実現
<市場・顧客の視点>
・時代の変化に合わせた事業ポートフォリオの組み替え戦略の実現
<プロセス変革の視点>
・ニッチだが高いシェアを得られる新製品輩出のプロセスの成果
<学習と成長の視点>
・化学物実物データベースとしての生物科学研究所の貢献
・高い売上高研究開発費比率と研究開発要員比率

(以上)

 

京都の等持院を訪ねて

  京都の庭園が好きである。特に枯山水の庭園を好んで巡ることが多いのだが、等持院はこれといった枯山水はないにしても、雰囲気の好きなところのひとつである。たまたま最初に訪ねたのが冬の朝だったこともあってか、静かな中に何か凛とした気分が漂っていたのが、好印象を感じたのかもしれない。

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 等持院は、南北朝時代の暦応4年(1341)に足利尊氏が夢窓国師を開山として中興し、尊氏の歿後この寺に葬り、その法名をとって等持院と名づけられたという。しばしば火災にあって荒廃し、現在の建物は江戸・文政年間(1818~30)の建立だそうだ。芙蓉池畔の清蓮亭茶室及び夢窓国師作庭と伝える池泉回遊式庭園とある。
 明治以前の日本人は庭園が好きだった、と司馬遼太郎は『この国のかたち(4)』の「庭」の節で書いているように、日本人は空間についての好みや文化に繊細な感覚を持っていたのであろう、中程度の農家でも、美しい前栽や坪庭を作って楽しんで、造形美術として真剣な対象にしていたようだという。
 庭園は当然ながら建物に付属するが、日本の場合ときに逆の場合もあり、林泉という私的な天地を作って建物のほうは、それを眺めるためのアクセントとしたものも多く見受けられる。いずれにしても、江戸時代の建物に多く出会う京都の寺々である。

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(以上)

 

鳩森八幡神社を訪ねて

  特任の授業を担当している桜美林大学には、都内のJR千駄ヶ谷駅近くに校舎がある。駅から校舎に向かって数分歩いていくと、校舎の手前に鳩森八幡神社が建っており、境内には本殿の他に能楽堂や富士塚、それに将棋堂などもある。由緒ある神社と見受けられ、千駄ヶ谷一帯の総鎮守だそうだ。

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 季節がら、『夏越の大祓』(6月30日(木)6時~祭典斎行)という看板が入口に掲げられていた。大祓式にさきがけて社殿前に茅ノ輪が設置され、知らず知らずのうちに身に付いた穢れを茅ノ輪をくぐることで清め、夏の猛暑を元気に乗り切れるよう祈願するのである。夏越の大祓には、都内のいくつかの神社をはじめとして、いままでに京都、川越、大宮の著名な神社で参列してきた。今年は、千駄ヶ谷に来るかと思いながら、校舎の入口をくぐった。

(以上)

 

無形資産価値とバランススコアカード(BSC)の再考

 およそ5年ほど前の話しである。東京と大阪の会場でISOマネジメントシステムに関係するプロジェクトの調査結果を、バランススコアカード(以下、BSC)のフレームワークにまとめて報告会で発表したことがあった。

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  報告会当日はBSCとは言わずに「経営戦略展開表」と名付けていたが、約100人くらいの聴衆からは好評をいただき、とくにBSCの4つの視点の考え方や因果関係は、ISOマネジメントシステムの領域で活動されている方々にとっては新鮮な興味を持たれたようで、報告者としては気分良く会場を後にしたものだった。
 その後、いくつかの企業の方々からお問い合わせをいただいたが、その多くは財務目標と非財務目標の因果関係と、それを実現する指標の策定についてであった。ごく簡単に言ってしまえば、無形資産価値に該当する非財務活動を如何に見える化し、有形資産価値に相当する財務目標の達成につなげられるのかといったものであった。そのような非財務指標を作れるガイドが社内にあればな、という思いが伝わってくるメッセージが多かったのである。
 その記憶もだんだんと薄れてきた今月(2016年6月)になって、日本経済新聞に「人」や「企業風土」という目に見えない無形性の資産を、どのように捉えて先を見通すのか、どういう新しい評価の尺度を考えていくべきなのか、という課題を投げかけた記事が目にとまった。その記事を要約してみると、
・外的要因に影響されず好業績を続ける企業はどこが違うのか。
・その執筆者らの調査では、それらの多くの企業では経営の目的に「働く人の幸せ」や「社会への貢献」といった精神を軸に据えていること。
・その精神から生まれる3つの無形資産は、いわば「共感資本力」と呼ぶべき源泉で、①自社が大切にする価値観を共有できる経営理念力、②社員のヤル気を高める人財育成力、③社員同志・取引先・地域社会などとの関係性を育む信頼形成力、が挙げられる。
・利益を生み出すには、他社と違う取り組みをしなくてはならないが、かつてはお金を調達して設備を拡充し、効率性を高めることが「違い」を生んだが、モノ・サービスが充足し情報やノウハウが瞬時に飛び交う今の時代は、お金や設備そのものが違いを生むことはない。
・むしろ、お金で手に入れることができない人間の発想力、知恵や工夫、お客様を感動させる心などが必要であり、「違い」を生む源泉は「人」や人の強みを引き出す「組織風土」の中に存在する。
・よって、お金の出し手である銀行や投資家にとっては、目に見えるものを評価する従来の尺度で融資先の新たな資金需要や投資先の発展性を測ることの陳腐化を意味し、新たな評価尺度が求められる。
といった内容であった。(以上は「日本経済新聞2016年6月2日夕刊」による)
 改めて以上のことを考えてみると、そこにはBSCのフレームワークを想起させるものばかりである。しかしながら、人や組織の能力(学習と成長の視点)だけがあっても片手落ちであり、それらがプロセス変革成果や顧客評価向上を押し上げ、ひいては財務や戦略の目標達成やビジョンの実現に近づけるようになることが不可欠である。いわゆる「全体最適化経営」なのである。
 ちなみに、最近のISOマネジメントシステムの審査で出合った某チームリーダーが、BSCの4つの視点を引き出してきて、経営の考え方を突き詰めれば、このBSCの4つの視点に集約されるでしょう、と呟いていたのが嬉しかった。

(以上)

 

6月の公開セミナーのご案内

 2016年4月14日以降発生しました熊本地震をはじめとする九州の一連の地震で被害を受けられた皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早く復旧されますよう、お祈り申し上げます。さて、6月に予定されています「高橋義郎の公開セミナー」のご案内をお送り致します。

◆JPCA(一般社団法人日本電子回路工業会)ショー「知財・標準化とリスク対応セミナー」

・演題 : 国際競争力を後押しする制度・仕組み・活用事例「中小企業でのISOマネジメント活用のポイント」
・日時 : 2016年6月2日(木)15;15~15:55
・会場 : JPCAショー(東京ビッグサイト)6H-共催/特別協力セミナー会場
・会費 : 無料(但し、JPCAショー入場料は別途支払い必要)
・定員 : 50席程度
・URL : http://www.jpcashow.com/show2016/jp/event/intellectual.html
皆様のご来場を、心よりお待ちしております。

 ◆「ISO31000:リスクマネジメント規格の理解と実践」
・概要 : ISO31000をベースにしたリスクマネジメントを化学工場、医療機器、食品、コンビニ等の想定事例を使って現場目線で解説。リスクマネジメントを理解する70のキーワードを中心に、SWOT分析、ISOマネジメントシステム、バランススコアカード、経営品質等のフレームワークも取り込んだ「未来の指標」であるリスクに対する取り組み手法を想定事例と演習で紹介。
・日時 : 2016年6月6日(月)9:30~17:00
・会場 : グローバルテクノ研修センター(JR高田馬場駅から徒歩5分程度)
・会費 : 有料  http://www.gtc.co.jp/semn/other_iso/rmp.html 
・定員 : 残席あり
皆様のお申込みを、心よりお待ちしております。

(以上)

ユニクロ柳井氏の戦略失敗に見る部分(部署)最適の教訓

 月日が経つのは早いもので、サラリーマンを定年退職してから6年目、そして大学院の特任教員になって4年目の春を迎えた。5年間も自由業をやっていると、毎日の過ごし方も一定のサイクルが出来上がってくるもので、クライアントでの用件や大学院での授業がない日は、都内にある2つの大学へ行くことが習慣になってしまった。

 仮にA大学とB大学としておくと、A大学では豊富な文献や情報を得ることが出来、B大学では資料を作成する作業環境が整っている。よって、午前中はA大学に寄り、まずはここで必要な資料を調べて入手をし、午後はB大学に移動して自分の資料を作成し完成させるといった日常のサイクルである。

 かつて漫画家の藤子不二雄氏は、毎朝、書類で膨らんだ鞄を持って馴染みの喫茶店に立ち寄り、そこで作品の構想を練ったあと、午後は事務所に行って作品を完成させるという行動をとっていたそうだが、彼の業務サイクルに似ていなくもない。そのような日々を過ごしていると、何とはなしに取り組みたいテーマやアイデアが湧いてくるもので、いま関心を持っている全体最適や部分最適というテーマも、そのあたりから生まれてきたように思える。

 全体最適といえば、最近になって『会社が生まれ変わる全体最適マネジメント』という本が日本経済新聞出版社から出された。著者は石原正博氏で、全体最適化コンサルタントという肩書が自信のほどを物語っていて凄い。石原氏によれば、部分最適というのは、会社の方針、人、組織、仕組み、システムなど、あらゆる経営資源が限られた範囲や部分では最適であるが、会社全体として見れば何ら貢献せずに不最適である、もしくは悪い影響を及ぼすこと、と明確に定義している。

 これに関連した話題として、ファーストリテイリングの柳井氏は、4月13日(水)の日本経済新聞3面で「部署最適」という言葉を使っていた。ユニクロの値下げが市場に評価されず戦略ミスを認め、戦略を転換したという記事である。「みんなが自分の部署のことだけを見て『部署最適』を求めて、経営者感覚を持てず大きな変化についていけなかった」と嘆いているのである。

 同じような時に、セブンイレブンを育て上げた鈴木敏文会長の突然の引退報道もあり、彼の会社も全体最適経営を標榜してきた企業のひとつであることを想うと、何か不思議な因縁を感じるのは、筆者ひとりであろうか。まことに会社経営というものは、難しい社会システムなのである。

 ちなみに、前出の石原氏は全体最適化が必要な要因をチェックリストにしている。例えば、
・社員が会社の方針を理解しておらず、作られた経営計画が思惑どおりに実行されていない。
・経営者と現場層との間の意思疎通やコミュニケーションがしっくりいっていない。
・部署間が非協力的で対立があり、社内システム、仕組み、ルールが形骸化し効果が出ない。
・無駄な会議や打ち合わせが多く、研修に参加しても業務の成果が出てこない。
・人事評価制度に納得感がなく、社員もモチベーションが低く指示待ち社員が多い。
などというようなものである。

 読者の会社の全体最適度は、はたして如何であろうか。

                                (以上)

経営のマネジメントとガバナンスとの関係について考える

 長らくマネジメントシステムに関わってきた経験の中で、最近とみに注目されている「ガバナンス」と「マネジメント」との関連が良くわからないことがある。

 この両者の関係をどう考えていくのか迷っていたということなのだが、そんなときに一読したのが筆者が特任の教員をさせていただいている桜美林大学の広報誌であった。

 その一部を要約・引用させていただくと、

・最近、大学の経営ではガバナンスとマネジメントという言葉がよく聞かれる。これは一般的に、どのように理解すればよいのか。

・ガバナンスは組織や制度、権限のことであり、それに対して、目標を具体化して運営の仕掛けをすることをマネジメントと捉えている。

・たとえば大学での場合、ガバナンスを変えれば大学が変わるというのではなく、その組織や権限をうまく使って、大学をどのように運営していくのかというマネジメントが大切な要素になる。

・大学をうまく運営するために、どういう仕掛けをして、いかにして人の心を結集させ、目標に接近できるのかということがマネジメントの要だと思っている。

と、非常に明快にガバナンスとマネジメントを定義しているのである。

 今後の勉強の参考にしたい。

(出所:篠田・畑山(2016)「百家結集(対談)」桜美林大学刊『Obiriner』No.38, March, p.14)

 

 

 

講演/研修/執筆/学会実績更新

◆講演及び研修講師のご依頼は、下記連絡先までお願い致します。

✉ ytakaha@obirin.ac.jp
☎ 090-3964-7431

 

◆主な領域

バランススコアカード、リスクマネジメント、経営品質、ISOマネジメント、
経営企画、経営管理、中期経営計画、経営戦略、品質・環境マネジメントシステム、業務改善、生産管理、CS・ES(顧客・社員満足)、CSR(社会的責任)、役員・管理職研修をはじめ、上記分野の研修講師・企画立案・コンサルテーション・ファシリテーション。

 

◆主な実績

【講演・研修・セミナー】

・「イノベーションのマネジメントシステムの動向」(桜美林大学、2020年)

・「 リスクマネジメント指針の最新動向」(桜美林大学、2019年)

・「技術開発プロジェクト業務改善支援研修」(大手医療機器開発製造企業、2019年)

・「マネジメント業務改善支援研修」(設備装置設計製造企業、2019年)

・「 事例に学ぶ目標管理と経営戦略」(企業研究会戦略担当幹部交流会議、2019年)

・「業務の標準化とマネジメントエクセレンシー」(OATUG JAPAN、2019年)

・「ISOマネジメントシステムによる全体最適化経営分析」(桜美林大学、2019年)

・「マネジメントシステムコーディネーター養成の意義」(桜美林大学、2018年)

・「経営に資するマネジメントシステム」(桜美林大学、2018年)

・「全体最適化経営におけるマネジメントと人材育成」(桜美林大学、2017年)

・「ISOとBSCを活用した全体最適経営」(桜美林大学、2017年)

<2016年>

・「バランススコアカード(BSC)を用いた事業計画作成研修」
 (某大手電機グループ会社管理職研修、同社にて、連続開催)

・「中小企業の良いマネジメントシステム、残念なマネジメントシステム」
 (日本中小企業ベンチャービジネスコンソーシアム講演、明治大学にて)

・「経営戦略担当幹部交流会議・研究協力委員」
 (一般社団法人企業研究会にて)

・「生産管理研修」
 (某米菓製造販売老舗会社管理職研修、同社にて、連続開催)

・「ISOマネジメントシステム・コーディネーターによる経営革新」
 (桜美林大学大学院経営学研究科主催ビジネス戦略講座講演、同大学にて)

・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (グローバルテクノ公開セミナー、同社にて、連続開催)

・他、多数

<2015年>

・「生産管理研修」
 (某米菓製造販売老舗会社管理職研修、同社にて、連続開催)

・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (グローバルテクノ公開セミナー、同社にて、連続開催)

・「バランススコアカード(BSC)を用いた事業計画作成研修」
 (某大手電機グループ会社管理職研修、同社にて、連続開催)

・「エンターテインメント業界におけるリスクマネジメント」
 (某大手音楽会社役員管理職向け講演、同社にて)

・「クレジット業界におけるリスクマネジメント」
 (某大手クレジット会社リスクマネジメント担当者向け研修、同社にて)

・「バランススコアカードによる事業計画立案研修」
 (某大手重工業会社新任役員研修、同社にて、毎年開催)

・「TML5周年感謝セミナー」
 (グローバルテクノ社にて)

・「生産管理上級コース研修」
 (某非常食製造販売会社管理職研修、同社にて、連続開催)

・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (某原子力関連財団法人管理職研修、同財団にて)

・他、多数

 <2014年以前>

・「バランススコアカードによる事業計画作成研修」
 (韓国系某電子会社日本法人役員研修、同社にて)

・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (某医療関連会社管理職研修、同社にて)

・「バランススコアカードによる事業計画立案研修」
 (某大手ゴム加工製品製造販売会社管理職研修、同社にて)

・他、多数

 

【執筆:主な近著】

・「イノベーションマネジメントの国際標準化動向」(桜美林ビジネス科学、2020年)

 ・「リスクマネジメント指針の国際標準の一考察」(桜美林経営研究、2020年)

・「経営に資するISOマネジメントシステム」(アイソス、2020年2月号・3月号)

・「マネジメントシステムによる全体最適化経営分析の一考察(とよす株式会社の事例研究を中心に)」桜美林経営研究、第9号、2019年3月)

・「経営に資するマネジメント:2社の事例」(桜美林大学ビジネス科学、2019年)

・「国際標準化人材育成・桜美林大学の取り組み」(アイソス、2019年2月号)

・「事例で見る中小企業の成長戦略)」(同文館出版、共著、2017年)

・「マネジメントシステムのKPI策定におけるバランススコアカード活用の一考察(堀場製作所の事例研究を中心に)」(桜美林経営研究、第7号、2017年3月)

・「革新的中小企業のグローバル経営」(同文館出版刊、2015年1月、共著)

・「経営品質を高める仕組みや活動に学ぶISOの役割と活用事例」
 (アイソス、2012年10月~2013年3月)  

・「組織としてのリスクマネジメント:ISO31000を紐解く」
 (経営品質アセッサージャーナル、2011年12月) 

・「戦略の空文化を防ぐ非財務指標の選び方」
 (日経ビジネスマネジメント、2009年5巻、日経BP刊)

・「使えるバランススコアカード」(PHPビジネス新書、PHP出版刊、2007年)

・その他、多数

 

【所属学会、等】

・桜美林大学総合研究機構国際標準化研究センター センター長

・社団法人企業研究会「戦略担当者交流会議」 コーディネーター

・経営品質学会 理事

・経営行動研究学会、経営情報学会、品質管理学会、組織学会、ビジネスモデル学会、等の会員
・BSCフォーラム

 

(2020年4月15日更新)

神奈川に見る県民性のバランススコアカード的考察

 JRの湘南新宿ラインが開通してから、筆者が住んでいる川口から鎌倉が近く感じられるようになった。その理由は、川口駅のひとつ隣駅の赤羽から鎌倉まで直通で行けるようになったからである。実際のところ所要時間の長短は気にならないが、ひと駅先で乗れる(帰りの場合はひと駅先で帰れる)という便利さは、気分から言えば大いに有難いことである。

 学生時代からほぼ季節ごとに鎌倉を訪ね歩いてきたが、やはり鎌倉は春と秋がいい。古都の桜の季節は、まさに由緒ある風かほるという表現がぴったりであり、「きんもくせい」の凛としたあまずっぱい香りが漂う季節は、鎌倉の古寺のみならず、ひっそりとした品の良い住宅地に来ていることを実感させてくれたものである。季節毎に訪れる鎌倉というところは、湘南の海も含めて、いつの時期でもそれなりの風流さと新たな発見を与えてくれる場所なのである。

 鎌倉といえば鶴岡八幡宮があまりにも有名だが、その八幡宮からJR横須賀線の踏切を超えた反対側に筆者の好きな古寺のひとつである寿福寺がある。寿福寺は、とくに敷石に導かれる参道が良い。寺の入り口から中門に至る参道を眺めていると、まさに鎌倉時代への入り口を一服の絵で見ている想いがする。鎌倉市の関連情報をWEBで見てみると、寿福寺は1180年に北条政子が頼朝の父、義朝の旧邸跡に明菴栄西を招いて創建したという。三代将軍実朝もしばしば訪れ、最盛期には十数か所の塔頭を擁する大寺であったそうで、鎌倉五山の第三位という位置づけである。(写真:寿福寺の中門へ)

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 ところで、言うまでもなく鎌倉は神奈川県にある。神奈川県は都会的な県だといわれている。実は国立公園の箱根も丹沢山地を含む丹沢大山国定公園もこの神奈川に属するのだが、横浜はもとより、横須賀、鎌倉は大都市であり、逗子、三浦、葉山町、などは別荘地であるほか高級住宅地でもあり、いずれも東京への通勤が盛んに行われており、東京の文化の影響は極めて大きい。「湘南」と呼ばれる地域にも、藤沢、茅ケ崎、平塚、小田原などの都市が並んでいる。こうしてみると、神奈川は都市的、都会的な県だとわかるのだが、県民性にも非常に大きな特色があるようだ。

 かつて、ある研究所が行った全国県民意識調査では、「お互いのことに深入りしないつきあいがよい」「神でも仏でも何か心のより所になるものがほしい」「国や役所のやることには従っておいたほうがよい」「地元の面倒をよくみる政治家をもりたてたい」という意見に対する賛成の答えはいずれも全国で最低。それから「地元の行事や祭りには積極的に参加したいと思いますか」「隣近所とのつきあいは多いですか」「隣近所の人には信頼できる人が多いですか」「職場や仕事、商売でつきあう人とは仕事以外のことでもつきあうことが多いですか」という問に対しての肯定の答えは最低から3番目であったのだ。

 要するに極めて都会的性格がつよいのであって、個人を尊重することをいつも中心に考え、なにごとにおいても合理性を重視する、これが神奈川県民の考え方の特徴だと言えるだろう。なおこうした特質は特に「浜っ子」と呼ばれる横浜の市民によくあてはまる。よそ者に対する閉鎖的な意識もあまり無いのだ。しかも民主的というか、総花的とでもいうのか、全員に平等なチャンスを与えようとする傾向が強い。また、横浜の人はつきあいが上手で、折衷案を出すのがじつにうまいという。そういった明朗さが神奈川県民の長所といえるのだが、気候にも恵まれ、開放的な土地柄だけに競争心や忍耐力はあまり強くない。よくも悪くも「民主的」なのが、この県の特徴ということになるだろう。

 少し前の話になるが、「中長期的課題と将来ビジョン」という報告書が神奈川県総合計画審議会計画推進評価部会というところから出されていた。今回はこの報告を参考にしながら、同県のビジョナリー経営の方向をBSCにまとめてみた。読者の意見を待ちたい。

<財務の視点>
・神奈川のポテンシャルを生かして地域の活力を生み、ゆとりある生活の実現
<顧客の視点>
・県民の個々人の多様性を生かし安心して暮らせる社会環境と実現
・科学技術の振興による県民や地域の活性化の実現
・神奈川の観光と産業のブランド向上
<プロセスの視点>
・新産業創出と既存産業の高度化推進プロセスの実践
・地域に根ざした産業の推進
<学習と成長の視点>
・県民のネットワーク社会の実現
・雇用の確保と産業人材育成の実践

(参考:「県民性の人間学」新潮OH文庫・祖父江孝男著、「神奈川県庁ホームページ」、「鎌倉市ホームページ」、他)

大阪に見る県民性のバランススコアカード的考察

 この数年間、関西のクライアント企業で研修やコンサルティングをする機会が続いている。それらの企業風土や社員について、とくに大阪と東京の企業や文化を比較する話題がよく出るのだが、司馬良太郎がその講演録で「大阪は軟体動物」と述べているように、改めて大阪の気質というものを考えることが多くなった。

 いつかホームページに掲載したかもしれないが、東京を拠点にしてビジネスに携わる身になってみると、大阪という地は他のどの県よりも身近に感じられるのは、筆者ばかりではないのではなかろうか。やはり大阪は東京と並ぶビジネスセンターであり、しぜん、その交流の密度は高いものになってくる。そのくせ、大阪という府民性について深く思うことは少なく、東京と比べてしまえば、たぶんにアジア的な匂いが立ち上るといった漠然とした印象が嗅覚に残っているにすぎない。ある外国人は初めて大阪の街を歩いたとき、「私は今日、きわめて日本的ではないものを見た」といっていたが、それは「動く'かに'の看板」をさしての言葉だった。いかにもアジア的な環境が大阪にはあるのだ。

 京都府や神戸市・兵庫県とは異なり、大阪は大阪府全体が大阪的である。市と府は区別する必要がないし、大阪人の意識のなかには、市と府の境界が存在していない。したがって、大阪に対しては誰でも共通のイメージを持っているようで、「がめつい、しぶちん、ど根性、活動的、創意工夫がうまい、ユーモアに富む・・・」といった記述が多く並ぶ。そうなった原因は、テレビや映画、小説など、とくに菊田一夫の昭和30年代の芝居「がめつい奴」によってつくり上げられた部分が大きい。

 他県から大阪に移り住んだ主婦の感想をまとめてみると、大阪人には見栄や体裁よりも実を取る合理性があり、また、初対面の相手にもペラペラと話しかける人なつっこさがあるようで、あらゆる点で庶民的だ。余談ではあるが、京都は「はひふへほ」、神戸は「パピプペポ」、そして大阪はといえば「ばびぶべぼ」の印象となるようで、ど根性、がめつい、丼池―どぶいけ―のように濁音ばかりが強調される感じだというのも何となく頷ける思いがする。ちなみに、パチンコというと名古屋が本場のように思われているが、生まれたのは大阪である。しかも、その発想がいかにも大阪的で、スマートボールが流行した時分、台のスペースを小さくできないかと考え、それなら立ててしまおうというので生まれたのがパチンコである。大阪人の発想はこのパチンコとよく似ていて、すでにあるものをもっと効率よくしたり、気楽なものにするところから生まれてくる。

 大阪人はよく、「エエカッコシイ」といういい方をする。気取った態度や考え方を嫌うところがある。そして相当なせっかちである。心理学者の長山泰久が、全国各地の主要都市で住民の歩くスピードを測定しているが、それによると、いちばん速かったのが大阪で、秒速1.60メートル。その次が東京で1.56メートルだった。大阪人のセカセカぶりを証明する現象はほかにもたくさんあるが、それに加えて、なんでも値切って買うのは大阪人の現実だが、名古屋人のケチとはちょっとニュアンスが違う。たとえば、ふだんの生活を切りつめてもお金や財産を残したいと思う人はそんなにいないようだし、使う値打ちのあるときには気前よく使うのが大阪人ともいえるだろう。

 大阪人には反権威主義的な傾向については以前にも触れたが、同じ意味で個人主義的な傾向も非常に強い。たとえば集団のなかで統制の取れた行動がなかなかできないし、頭ごなしに命令されても、表面はともかく内心ではかなり反発する。かつて、軍隊のなかでも大阪人で構成された部隊は非常に弱いといわれたが、それもこういった性格のせいである。計算高いから、負け戦とわかっている場合には無理な戦闘はしない。逃げるときも散り散りバラバラに逃げるのである。こういう大阪人だから、がっちりした組織のなかで歯車となって働くより、個人あるいは小さな組織で働くのを好む。大阪に数多くのベンチャービジネスが育ったのも当然のことだろう。

 大阪人のバイタリティーは、その人見知りしない性格にもあらわれている。NHK放送文化研究所が1978年に行った全国県民意識調査において、「はじめての人に会うのは、気が重いほうですか」の問に対して「はい」という肯定の答えは全国最低であった(最高は青森県)。しかし同じ調査において「人とつきあう時にはお互いのことに深入りしないつきあいがよい」という答えが、78年、96年とも全国で第3位であった。少し意外な感じもするのだが、これが大阪人のつきあいかたの本質なのかもしれない。

 大阪の若い男女は、相手に好意を持つと最初にはっきりと宣言する。「好きやねん」と打ち明けてから交際が始まる。だから、相手の気持ちを推し量ったり、あれこれ駆け引きするようなことは嫌う。ふだんでも自分の気持ちをストレートに伝えるから、ケンカになったり別れたりするのも早い。男性は案外、保守的・封建的なところがある。「おれのいうことがきけないのか」といった気持ちがどこかにある。それに対して女性は、表面的には男を立てる。けれども芯が強いから、いざとなればしっかり男性をリードする気丈夫さを持っている。結婚観は堅実なものがある。女性はやりくり上手だし、男性も勤勉な性格だ。恋愛や結婚相手としては、大阪人は気取りの必要がないし、ざっくばらんな関係できわめて開放的だといえるだろう。

 そのような府民性を考えるとき、自由闊達な風土に根ざした開放的でチャレンジャブルな戦略の方向性が見えてくるのではないだろうか。

<財務の視点>
・堅実な財務資源の運営と管理
・ニューベンチャービジネスなどによる財源の拡大
・アジア経済圏との交易収入拡大

<顧客の視点>
・財政執行に対する社会・住民のしたたかな視点からの参画とコーチング
・ニューベンチャービジネスのメッカとしての大阪イメージの改善
・アジア経済圏からの好感度や評価・満足度の向上

<プロセスの視点>
・リアリズムや実質的な生活姿勢に裏打ちされた経営や生活のプロセス改善
・ニューベンチャービジネスへの優遇策と大阪発の新事業創造の増大
・住民に優しい効率的な経営や生活システムの創造
・せっかちの思考が生み出すサイクルタイムの短縮への挑戦
・個人単位から社会的視点や組織単位へのプロセス拡大と向上への試み

<学習成長の視点>
・個人的な視点の経営から組織的な視点の経営への脱皮
・個人的情報の共有化とネットワーク化による有用化の実現
・府独自の一体感のある価値観共有の醸成と府政や府発展への仕組みづくり
・開放的なコミュニケーション環境の向上と有用なアイデア創造の促進

 諸兄のご意見を待ちたい。

(参考:「県民性の人間学」祖父江孝男著・新潮OH!文庫)