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高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営品質の散歩道 5.学習する組織について考える

 数年前のことだが、大学の図書館で入山氏の本を借りたことがあった。金曜日の授業が終わった後、ややリラックスした気分に浸りながら、町田で寿司をつまみながら読みふけっていたことを思い出す。彼がまだ海外で教鞭をとっていたころに出版された本で、世界の経営学者は何を考えているのかといったようなタイトルだった。内容は筆者にとって新鮮で、その中の一文にドラッカーのことについて触れていた。日本以外の経営学者はドラッカーを研究テーマにすることは少ないこと、日本での人気は説話としての人気ではないかと思ったこと、などが述べられていた記憶がある。今回の稿では、そのドラッカーについて書かれた本 『ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント』の第6章と第7章にある「学習する組織」について振り返ってみたい。

 同書は、著者の酒井氏がドラッカーと直接対話をしたことを、まとめられたものである。日本に学んだとされるピーター・センゲの「学習する組織」論のコンセプトを、組織に属するメンバーがビジョンや目標を達成するために自分自身の能力を伸ばしたり、考え方を一新したりすることによって、企業の競争力を高めていこうという組織論、と酒井氏は記している。その前提に立った上で、センゲが提示している5つの原則を紹介している。すなわち、1.自己マスタリー、2.メンタル・モデルの克服、3.共有ビジョンの構築、4.チーム学習、5.システム思考、である。

 「自己マスタリー」のマスタリーとは統御力とか勝利などの意味で、自分は人生において何を達成したいのか、そのために潜在的な能力をどう伸ばしていくのか、そのために生涯を通じて学習することが大事、と酒井氏は書いている。次の「メンタル・モデルの克服」は、我々の心に固定化されたイメージや概念の克服であり、組織メンバーが共有しているメンタル・モデルを変えていかなければ競争に勝ち残れない、という表現で説明をしている。また、「共有ビジョン」については、将来の目標とか自分たちの成すべき課題を決めることで、リーダーに求められていることは、不確実な時代にあって、自分たちが進むべき道を示すことであることを強調している。見えない未来を見て、自分たちの方向性を示せる人こそリーダーの器であろう。

 「チーム学習」については、野中氏がナレッジ・クリエーション(知の創造)を生み出すのが対話であること、創造性のある企業には対話の仕組みがあること、お互いの思いや意見を戦わせることによって自分たちが気付かない何かが生まれること、などを示唆している。そして最後に「システム思考」である。酒井氏は「木を見て森を見ず」という諺を引用し、全体から部分を理解すること、全体の視野から部分と部分の関係性を明らかにしていくことを説いている。彼によれば、システム思考は日本人にとって不得意な思考方法だとしているが、企業の構造が複雑になり、また、グローバル化が進む中で、システム思考は非常に重要な成功要因になってくると述べている。

 余談になるが、酒井氏は同書において「今の日本企業に大切なキーワードが5つある」としている。コンプライアンス、ダイバーシティ、プロフェッショナル、コラボレーション、そして、イノベーションである。この5つのキーワードを組み合わせると、法令順守以外の高い倫理観を持った企業が、性や人種、障害などにとらわれることなく多様な人材を雇い、その一人ひとりをプロとして育て上げる。そのプロたちが、企業外のプロたちとネットワークを組んで協業することでスピードアップをはかりながら、新しい革新を生み出す、というような企業の理想像が描けるという。

 私事になるが、現在お世話になっている大学院で、来年度から新たな役割を拝命することになったが、その役割のポイントを上述の5つのキーワードから選ぶとすれば「ネットワーク」になるのではないか。そのようなことを考えながら、本稿を締めくくることにする。

参考:酒井綱一郎(2010)『ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント』日本経済新聞出版社

以上