高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営品質の散歩道(10) 小倉昌男の経営学について考える

 本棚に並んでいる書籍の中で、未だに読んでいないけれど、気になる本がいくつかある。『小倉昌男 経営学』もその一冊で、この正月休みに何気なく手にとって一読してみた。宅急便の生みの親として知られるヤマト運輸の二代目社長だった小倉昌男さんの執筆本である。

 彼は、経営者が成功話を本にすると会社が傾くというジンクスを信じていたため、本の執筆依頼は一切ことわってきたと回想していた。しかし、すでにヤマト運輸という会社を離れていたことから、経営者の頃に様々な決断をしたのに、その背景や理由を社員に詳しく説明しなかったことが多かったという反省、それに、社長が、どうしてそう考えたのかを、いま改めて話してみるのも意味があるのではないか、という気持ちになったようだ。

 こんにち、小倉さんの宅急便ビジネス成功物語は有名な話で、いろいろな機会やメディアを通じて報道されているから、この稿では詳しくは書かない。むしろ、筆者が経営品質のフレームワークやバランススコアカードの視点で眺めてみて、オヤ?と思ったところを部分的に抜き書きしてみたい。

 そのひとつ目は、小倉さんが「小口貨物は非効率で儲からない」と考えていた思い込みを、事実を数字ではじき出したことによって、自らの思い込みを払拭していったことが挙げられる。数字で比較することによって新たな事実を発見し、経営に取り入れることの大切さがわかる事例である。経営品質で言うところの「分かっているつもり症候群」を抱えている組織には、参考になるのではないか。

 この気づきの背景には、ヤマト運輸が利益改善に四苦八苦しているのに、西濃運輸をはじめとする関西勢は高い利益率を誇り、ますます発展しているのは何故か、という自らの問いがあった。彼は、大阪を訪れた時に、大手ライバル会社の支店をこっそり外から覗いて観察し、数字で計算した結果を比較し、小口貨物が大きな利益を生んでいる事実を知ったのである。それが今日の宅急便ビジネスのアイデアにつながったという。

 ふたつ目は、生産性向上の取り組みである。小倉さんによれば、生産性向上の原理は、労働者一人当たりの設備投資を大きくし、その稼働率を高めることで、労働生産性も高くなるという考え方である。運送業は、典型的な労働集約産業であり、総コストの約60%近くを人件費が占めるので、経費の合理化には労働生産性の向上が不可欠。よって、運行車両の大型化、トレーラーシステム導入、乗り継ぎ制採用、運転業務と荷役業務の分離、ロールボックス・パレット方式開始、などの取り組みに注目したいところだ。

 その他にも、宅急便市場をひとつの業態として構築したことや、全員経営の体制づくり(パートナーシップ経営)を標榜したことは、良く知られている。業態は流通革命として広く理解されているものであり、全員経営は、特にコミュニケーションを重要視し、社長の持っている情報と同じ情報を従業員に与えれば、従業員は社長と同じように考え、行動するはず、という考え方である。従業員が、社長はこうして欲しいだろうと推察し、自発的に行動するのが、パートナーシップ経営だと喝破していた。

 いずれにしても、この本に書かれているキーワードは、経営品質のフレームワークや、バランススコアカードの4つの視点に該当するものばかりであった。新年にあたり、改めて経営品質やバランススコアカードの普遍性について再認識した次第である。最後に、新しい年が、読者の皆さんに幸多い年となりますよう祈念しつつ、本稿の筆をおくことにしたい。

参考:小倉昌男(2011)『小倉昌男 経営学』日経BP社、35刷

以上