高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営品質の散歩道(11) 名探偵の分析に見るBSCの普遍性

 経営品質向上活動を行っている組織では、目標展開にバランススコアカード(以下、BSC)を使っているところが多いと聞く。以前からBSCに深く関わってきた筆者においても、BSCは経営品質やISOマネジメントシステムのフレームワークにしっくりと整合することを良しとして、様々な機会にBSCの有効活用をお薦めしてきた。そこで、ちょっと変わった側面から、BSCによる状況把握を試みてみたい。

 シャーロックホームズは、周知のようにコナンドイルが生んだ推理小説(彼は歴史小説と呼んでいるらしいが)の主人公である。初めて彼の本を読んだのは高校時代と記憶している。川口駅東口にあった小さな書店で買い求め、たいへん面白くて、あっという間に一連のシリーズの文庫本を読み終えてしまった。その余韻がまだ残っていたせいか、その後、大学生のときにヨーロッパに3週間ほど行く機会があり、そのとき立ち寄ったロンドンの大きな書店で見つけたシャーロックホームズの洋書を、衝動的にごっそりと買い込んでしまった思い出がある。

 なかでも「4つの署名」(The Sign of Four)が好きで、いまでも書棚から引っ張り出しては、酒の肴がわりに読むことが多い。当初、この作品のタイトルにはFourの前にtheが付いていたそうだ。のちに単行本にするとき、作者がこれを取りさったといわれている。探偵小説にあっては、題名のつけかたも作者の苦心するところで、「おや、何だろう?」と読者の好奇心なり探索欲を刺激するような題を選ぶことになったのだろう。その意味で冠詞をとりさったのであろうが、日本訳の題名も『4人の署名』よりは『4つの署名』のほうが勝っているようだ。

 ところで、シャーロックホームズはイギリス人だろうから、他民族である登場人物にはなかなか渋い評論をしているのが面白い。たとえばフランス人の探偵について、『あの男はケルト系らしく、鋭い直感力はあますところなく備えているが、この種の仕事の発展には絶対必要な、広範囲にわたる正確な知識に欠けている』などとワトソンに話をしているのだ。ケルト人はガリアと呼ばれたいまのフランスの地に住んでいた民族で、シーザーのローマ軍が「ガリアの地」を征服し、偉大なローマ文明を植えつけたことによって、いまなおローマ文明の嫡流あるいは中華の地だとどこかで思っているらしい。敗れたケルト人たちはローマ人と混血することによって後のフランス人の原型をつくった。

 彼の真骨頂は、警察の知人や依頼主が手に負えなくなった事件の解決に困ってやってくると、専門的な見地からデータを精査して、独特の意見を発表することであろう。また、かねがね彼が言っていることに、すべての条件のうちから、不可能なものだけ切り捨ててゆけば、あとに残ったものが、たとえどんなに信じがたくても、事実でなければならない、というのも興味深いコメントだ。そして、どんなに素晴らしい解決になってもけっして手柄顔をせず、自分独特の力によって事件を解決してゆくという愉快な仕事そのものが、彼にとっては無上の報酬となるのである。自己実現の結果に浸る快感といったところであろうか。

 そこで、シャーロックホームズの生きざまをBSCの4つの視点に書いてみると、次のようになるのではないだろうか。BSCの普遍性を試すお遊びとして楽しんでいただければ幸いだ。

<財務や価値の視点>
・社会的貢献と、それに伴う報酬の獲得。
・事件解決による自己実現と快楽の享受。
<顧客の視点>
・社会悪の撲滅への貢献。
・依頼者に対する満足度の高い事件解決。
<プロセスの視点>
・専門的見地からデータを精査した独特な捜査プロセス。
・全ての条件のうち不可能なものを切り捨てた事実把握と仮説設定のプロセス
<学習と成長>
・専門知識の習得と活用
・捜査情報ネットワークの構築と活用

参考:「四つの署名」コナンドイル著、延原謙訳、新潮文庫

以上