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高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営品質の散歩道(12) アイデアのつくり方とホームズの思考

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「ブック・レビュー」と称する読書勉強の同好会がある。もともとはバランススコアカード(BSC)を研究するメンバーの集まりが、発展的解消をして読書勉強会に移行したものだ。優れた幹事役の方のおかげで、毎月順番に推薦書を紹介して意見交換を続けている。筆者は2年ほど前から参加させていただいているが、その中で読まれた本のひとつに、ジェームス・W・ヤング著、今井茂雄訳の『アイデアのつくり方』(廣済堂、1998)がある。本文が62頁で、竹内均さんの解説を含めても100頁程度の短編ながら、今でも本棚の一角に存在感を持って鎮座している。1886年生まれのヤングは、アメリカ最大の広告代理店、トムプソン社の常任最高顧問、アメリカ広告代理業協会(4A)の会長などを歴任。広告審議会(AC)の設立者で元チェアマンでもあった。余計な話だが、ヤングは1973年に没しているが、この年は筆者が大学を出て社会に出た同じ年でもある。

 この本には、経営品質に関わるキーワードが散見される。「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外のなにものでもない」などというメッセージは、いま流に言えばイノベーションと同一語ではないだろうか。そして、ヤングは本書で「アイデアが作られる5つの過程」を紹介している。その5つのアイデア創造過程とは、①資料を集める、②心の中で資料に手を加える、③孵化段階として自分の意識の外で何かが自分で組み合わせの仕事を任せる、④アイデアの実際上の誕生(分かった!ユーレカ!)、⑤現実の有用性に合致させるために最終的にアイデアを具体化し展開させる、という5段階である。竹内均さんは、データ集め→データ租借→データ組み合わせ→ユーレカ(発見)の瞬間→アイデアチェック、と解説の中でまとめ、先ずもって重要なのは、③と④の意識的活動の時期と述べている。パレート学説(法則)、ブレーンストーミング、KJ法などにも触れ、それらの孵化と発見を支援するヒントとなる手法として紹介しているのも興味深い。

 以上のようなアイデア作成法について興味を持った筆者ではあるが、もうひとつ面白く感じたことは、ヤングが本書の中で、シャーロック・ホームズをたびたび登場させていることであった。シャーロック・ホームズについては、前回の本稿でも触れた。ヤングはホームズが小説の中で出してくるスクラップブックを引き合いに出して、集めた資料から1冊の有益なアイデアの種本を作ることの大切さを紹介している。また、第3の段階に関連させて、ホームズがいつも1つの事件の最中に、捜査を中止して、ワトソンを音楽会に引っ張り出すやり方を回想しているが、創造過程、すなわち「アイデア発酵」の段階での気分転換の重要性を示唆していることに注目したいところだ。

 余談だが、ヤングとドイルの年譜を調べてみると、ヤングはドイルが1882年に病院を開業した4年後に生まれている。有名が「緋色の研究」が1887年、「4つの署名」が1890年、そしてホームズの冒険物の連載が1891年に始まったことを考えると、1906年に20歳のなったヤングは、当然のことながら、ドイルのホームズ物を読んでいたはずで、本書においてアイデアや思考の創造のヒントを、ホームズに求めたことは想像に難くない。

 ホームズの思考法のことである。ホームズの探偵小説は、筆者にとって今でも飽きることはないが、いくつかの名言のうち、「すべての条件のうちから、不可能なものだけ切り捨ててゆけば、あとに残ったものが、たとえどんなに信じがたくても、事実でなければならない」(4つの署名)、というのは興味深いコメントだ。また、ホームズがワトソンに「君は確かに見てはいるが、観察はしていない。見ると観察をするのとでは大違いなんだ。君が何回も昇り降りしている階段は何段ある?知らない?君は見ているだけで観察していないんだ(一部筆者意訳)」(ボヘミアの醜聞)という記述からも、少なからぬ示唆を与えられたものであった。

 今晩から明日の未明にかけて、雪が降り積もるかもしれない。シャーロック・ホームズを再読しながら、雪見酒と洒落込むことにしたい。

参考:ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』廣済堂(今井茂雄訳)

以上