高橋義郎のブログ

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「なぜ大国は衰退するのか-古代ローマから現代までー」を読んで

 企業と同様に、大国にも栄枯盛衰の流れがある。それは一体何なんだろうか。書店でこの本を見たとき、そんな思いを持って同書を買ってしまった。日系ビジネス人文庫で、著者はグレン・ハバードとティム・ケイン。訳者は久保恵美子とある。目次に目を通していたら、すぐさま目に飛び込んできたのが「大国が不均衡に陥る標準的パターン」である。それは、
①「限定合理性」:理想的な経済政策を選択する支配者の能力に限界のあることを意味する。
②国民の「アイデンティティー」は、経済成長や国力に欠かせない強力な文化的・政治的・経済的制度の形成を促すが、政治的アイデンティティーは分極化や停滞の大きな要因である。
③「損失回避」によって、指導者らが何かを革新することはまれになる。
⓸「時間選好」の概念も重要で、当局者な改革の必要性を認識していても、求められる改革の実行を遅らせ、有権者も痛みを伴う現在の選択を避けようとする。
といった内容であった。
 本書では、ローマ帝国、中国、スペイン、オスマン帝国、大英帝国、ヨーロッパ、カルフォルニア、米国、そして日本を取り上げているが、それぞれの文末に、転換点(年)、経済的不均衡、政治的な原因、行動面での機能不全などについて、まとめた衰退の概要が各章末に書かれている。ちなみに、日本の衰退の概要には、転換点は1994年、経済的不均衡は財政面・構造面、政治的な原因は、特定利益集団や中央集権的な官僚制に比べて脆弱な民主制、行動面での機能不全は、新重商主義を経済成長策とするヒューリスティック、大規模な銀行や企業による損失回避、などとなっている。
 第8章「日本の夜明け」は、西洋のチェスとよく比較される日本の囲碁の紹介から始まり、日本の近代及び現代の歴史と囲碁の対局とを比較して、両者が似ているとしているのは興味深い。そのため、日本の台頭と衰退の物語は、囲碁のように3部に分かれるという。その第1部は1860年から1905年の急速な近代化の時期で、囲碁でいう「布石」。第2部は、1980年代までの国家管理型の資本主義という制度の成功が裏付けられ、「手筋」にあたるもの。そして第3部は1990年以降の失われた年月で、囲碁では「後手に回る」ことを余儀なくされた時期を示すらしい。いずれにしても、なかなか読みでのある本であったが、筆者にとっては、やや手に余る本であった。

(以上)