高橋義郎のブログ

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『ビジネス・フレームワークの落とし穴』を読んで

 フレームワークと理論とは何が違うのか、という質問をよく受ける。フレームワークは日本語で「枠組み」だが、モノゴトを考える際に、考えや思考を整理するのに役立つ手法と話したりしている。良い経営をするためには、「LOGIC x MAGIC」が必要で、失敗しない経営をするためにはLOGICが必須であるが、成功するためにはMAGICも必要だと同書の著者は言う。フレームワークは、このうちLOGICを強化するのに有効である。そして、フレームワークを利活用する際には、ただフレームワークの枠を埋めて満足するのではなくて、「だから、どうなの?」の分析や戦略立案へとつながっていかないと、そこにフレームワークの落とし穴があるという警告の書と理解した。
 同書には様々なフレームワークが紹介されているが、馴染みのあるものに、SWOT分析と5つの競争要因がある。このうち、SWOT分析については、「やりたい人の主観を、客観的に見せるためのフレームワーク」としている。実際には「やりたい戦略」が先にあって、上司やトップ・マネジメントを説得するために作られるのがSWOT分析と述べている。なぜなら、主題のないSWOT分析は作れないからだという。SWOT分析は、社内説得用のフレームワークとして、今日でも多用されているということになるのだろうか。
 もうひとつの「5つの競争要因」については、ポーターが、業界の利益率が高いか低いかは、5つの要因を分析すれば明らかになると説いたからだという。同書では、日本の企業が新たに一般消費者向けの旅行会社を設立し、旅行業界に参入するケースを想定して、予想される利益率を考える事例を紹介している。その結果として、5つの競争要因から判断する限り、新規に旅行会社を設立したとしても、普通の参入の仕方では、高い利益率は望めないことを予想しているのである。5つの競争要因を分析して、利益率が低ければ参入をあきらめるか、どうしても参入するのであれば、他社が追随できない差別化をして、独自のポジションを占める戦略を構築しないと、成功は難しいということになった。
 そして、この項の文末に、企業では、5つの枠を埋めて戦略を提案する根拠としている例が少なくないが、埋めることで満足し、「だから、どうなの?」の分析まで踏み込んでないケースが散見される、という上記の教訓を記していた。山田氏の言うとおりであろう。


(出所:山田英夫(2019)『ビジネス・フレームワークの落とし穴』光文社新書)