高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

「CSVは文法」について考える

 今年度の修士論文指導のなかに、CSV(Creating Shared Value)に関するテーマについて論文を書いている院生がいる。しぜん、CSVを扱った書籍や論文に目が向くのであるが、その中の一冊が、『CSV経営とSDGs政策の両立事例』(近藤久美子著、ナカニシヤ出版、2017年10月)であった。そういえば、前述した院生も、彼の論文にSDGs(The Sustainable Development Goals)の大分類と17目標を事例各社のCSVの取り組みと対比させながら、CSV活動やKPIの妥当性の分析を進めていた。
 近藤氏の冒頭の一節に、同氏の前書『企業のコミュニケーション能力:仕事は単語、キャリアは言語、CSRとCSVは文法』(近藤2013)が紹介されている。このタイトルは、筆者の目を引いた。たぜならば、この言い回しをマネジメントシステム(MS)やビジネスエクセレンスモデル(BEM)、それにバランススコアカード(BSC)のフレームワークに照らし合わせてみると、「目標や行動は単語、戦略やBSCは言語、MSやBEMのフレームワークは文法」と言い換えることができると考えたからである。同氏の提唱を使わせていただくと、フレームワークを文法と解釈することは、MSやBEMを展開し運用している現場の理解が得られやすい、優れた表現だと感じた。
 近藤氏の書籍のなかで展開されているテーマは、「共通価値の創出パターン分類」と名付けられたフレームワークである。マトリックス図で4つの領域を区分し、縦軸はCSV事業の対象者で、上部がB2B:対法人、株がB2C:対個人と定義している。また、横軸はCSV事業領域で、左側がSDGs多い(職務拡大)、右側がSDGs少ない(職務充実)となっている。それぞれの領域について、各章で詳細な研究成果を述べられおられた。
 そして、CSVとSDGsのつながりにおいては、
・SDGsの該当数が少なくても、社会との共有価値を見出し、ビジネスとして成り立っていれば、SDGsの数は関係なくCSVであること。
・CSVとSDGsは同じ方向を向いているにもかかわらず、双方の距離感を縮める機会を模索中のプロジェクトは意外と多く、SDGsでは、企業の一層の参画が期待されていることへの認識が、まだ十分ではないこと。
などのご意見を披露されている。
 また、「CSV経営は、ブルー・オーシャン開拓のためと言っても過言ではない」とし、現在の日本のCSR活動が、レッド・オーシャン化していると喝破している。貴重な時間・費用・人的資源を投入しているにもかかわらず、他社との差別化が図られていないため、ソーシャル・インパクトに欠ける社会活動になっているのではないかというのである。SDGsなどの国際的は、今、私たちに何ができるのかを、問い掛けているように思えるという近藤氏の意見には、傾聴に値する思いがする。

(以上)