高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

17世紀のオランダに見る組織運営モデル

 オランダに本社を置くフィリップスというグローバル企業の日本支社に、30年近く勤務していました。筆者にとっては、3つの理由で面白い会社でした。一つ目の理由は、様々な国の社員と一緒に仕事ができたことです。おかげで英語も使えるようになり、各国のビジネス文化を直接肌で感じることができました。海外から日本支社に出張してくる社員はもとより、社長がオランダ人か日本人、CFOの副社長がスコットランド人、戦略担当スタッフがベルギー人、そして彼と一緒に業務サポートをお願いしていた女性のアシスタントはスイス人といった顔ぶれに囲まれて仕事をしていた時期もありました。二つ目の理由は、グローバルな経営モデルや手法にタイムリーに触れることができたことでした。アメリカで提唱された経営手法がヨーロッパへ渡り、フィリップスなどの大企業が導入する。そのうちに日本企業が取り入れるようになると、フィリップスではどのように導入・展開しているのですかと聞きに来られる方々も多くいらっしゃいました。そのため、有難いことに人脈も広がっていきました。そして、三つ目は自己実現の機会が多く、その可能性が高い組織であったことでしょう。振り返ってみると、本社から日本支社に赴任してきたマネジメントチームは、それなりの教育訓練と知見を体得している人々が多かったようで、今になって思えば、グローバル企業の運営能力の底力を見たような気がします。

 そのようなわけで、オランダは筆者にとって馴染みの深い国であり、日本とも江戸時代を通して長く関係の深いことは周知のことです。「街道をゆく35オランダ紀行」では、そのあたりの話に多く触れています。フィリップ社についても、ゴッホゆかりの地であるニューネンに行く途中でアイントフォーフェン市に触れ、そこがフィリップ社の企業城下町であることを紹介しています。そして、オランダにとって黄金の17世紀と言われる時代に「仕事」というものにかけてはヨーロッパ随一の能力を持っていたことや、物事を組織的にやるという今日の巨大ビジネスのやり方をあみ出したことなどに話が及び、18世紀以降の英国が繁栄したビジネスモデルの先駆者として位置付けています。その象徴が、オランダ東インド会社でした。

 フィリップス社に話を戻しますと、筆者が同社に勤務していた間、オランダ本社から様々な経営管理手法導入が指示されてきました。ビジネスエクセレンス(経営品質)やバランススコアカード、それにISOマネジメントシステムやリスクマネジメントなどがそれで、それらの組織内導入と展開を通じて知見を深めることができ、関係する人脈やネットワークも広がり、いまもってそれらの恩恵を受けています。なによりも、外資系企業のビジネス文化に直接触れることができたことは、貴重な体験でした。なぜならば、現在の日本企業の多くが直面しているコーポレートガバナンスやビジネス戦略及びブランドマネジメントなど、日本を代表するような企業の経営企画部門の幹部の方々と交流をするなかで、経営の透明性や戦略思考において未だ両者には彼我の大きさを感じるからです。半ば冗談で、筆者の経営思考の半分は日本的だが、もう半分は欧州的思考になっているねと言われたりしますが、日本的経営にどっぷり浸かった視点とはまた違った角度からの見方で意見交換できるディスカッションパートナーとしての存在も貴重ではないでしょうか。ちなみに、1990年ごろから始まった経営改革と戦略転換で、フィリップス社は世界的な総合電機メーカーからヘルスケアのグローバル企業へと大変身を遂げています。

(参考及び出典:司馬遼太郎『街道をゆく35オランダ紀行』朝日新聞出版、2017年、第4刷)