高橋義郎のブログ

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安芸門徒とネットワーク戦略

 「街道をゆく9」に兵庫県のたつの市(旧:龍野市)が出てきます。かなり以前、出張の折に龍野の街並みや城下の公園を歩いた記憶があり、懐かしくなって読み返しました。「赤とんぼ」の童謡で知られる三木露風は、播州龍野の人です。また、同書では播州門徒について触れていて、播州は一向宗(本願寺門徒)が強い土地だったと書かれていますが、たとえば、加賀一向一揆では室町末期に幕藩体制での加賀の守護大名である富樫氏を無用の者として追い出し、本願寺僧と門徒と地侍による共和制を20年も続けたということに、筆者は高い関心を持っています。

 門徒勢力の強かった土地については、加賀門徒、三河門徒、播州門徒、安芸門徒というようにして呼ばれています。三河一向一揆は徳川家康の若いころに起こり、彼も何度か命をおとしかけたと言われていますが、しかしながら、安芸門徒は一揆をおこしていないところに、別の関心も湧いてきます。「街道をゆく」シリーズに限らず、司馬さんは、なぜ安芸門徒が一揆をおこしていないのかについて注目し、もっと研究されても良いテーマではないかと、どこかで書いていたことを思い出しました。

 筆者の個人的な意見ですが、本願寺門徒の特徴は、組織的なネットワークを構築してきたことではないかと思います。前出の安芸門徒は毛利家中にも多くおり、毛利氏が織田氏と決戦するについて毛利氏を支持し、大阪の石山本願寺と締盟させることにより、毛利氏の孤立を防ぎました。播州門徒が浸透している当時の領主たちが、安芸の毛利氏に与するようになったのは、加賀における富樫氏や、三河における松平氏のような運命に陥ることを恐れたこともあるにせよ、彼らの持つネットワークを通じた工作によってではないかとも考えられます。

 門徒には強い倫理観念があると司馬さんは同書で語っていますが、組織や思想が持続的/サステイナブルな要因として、理念やビジョンが重要な成功要因であることは、現代の企業経営でも同じではないでしょうか。

(参考及び出典:司馬遼太郎「播州揖保川・室津みち」『街道をゆく9』朝日新聞出版、2016年、第4刷)