高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

5つの視点で考えるISO9001

 バランススコアカード(BSC)のセミナーでよく聞かれる質問のひとつに、「BSCとISOマネジメントシステム(たとえばISO9001)との関係は」とか、「BSCをISO9001の目標管理に使うポイントは」などというものがあります。そこで、今回は上記の質問に答える説明をしてみたいと思います。まずは、企業経営の活動の流れを表すBSCの4つの視点について説明します。BSCは「財務」「顧客」「プロセス」「学習と成長」の4つの視点の因果で構成されていますが、筆者は「経営者の視点」を加えて5つの視点の間の因果関係で説明することが多くあります。この因果関係は、以下のような流れで表すことができます。

【経営者の視点】(例えば、経営のビジョン、方針、目標などを明らかにして、どのような経営の方向を示すのか?)
               ↓
【学習と成長の視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは変革や改善の視点の目標を達成するために、どのような組織能力や個人能力を高めるか?)
               ↓
【変革や改善のプロセスの視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは顧客の視点の目標を達成するために、どのような価値創造のプロセスを構築し成果を高めるか?)
               ↓
【顧客(あるいは社会)の視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは財務の視点の目標を達成するために、どのように顧客(あるい社会)の評価を高めるか?
               ↓
【財務(あるいは企業価値)の視点】(例えば、財務の目標、あるいはどのような企業価値を高めるのか?)

  上記の5つの因果関係を言葉で説明すれば、まずは、どのような会社になりたいのか、その目指す姿を描くことから始まります。その具体的な例としては、経営ビジョンやミッション、経営方針や戦略、そして経営目標などがあるでしょう。それらで示される「なりたい姿」を実現していく基盤となるのは、組織力(技術や設備など)や個人力(力量やモチベーションなど)が考えられますので、例えば、経営目標を達成するため、あるいは変革や改善の視点の目標を達成するために、どのような組織能力や個人能力を高めるか、その目標を設定することが必要になります。そして、それらの組織力や個人力は、実際に企業や会社が生み出す価値(製品やサービスなど)を高める支援、言い換えれば、例えば、経営目標を達成するため、あるいは変革や改善の視点の目標を達成するためにつながるような目標の設定が必要になります。これを、両方の視点の因果関係と呼びます。

 そして、企業や会社が、より高い価値(より良い製品やサービスなど)を生み出す目標を設定し、例えば、経営目標を達成するため、あるいは顧客の視点の目標を達成するために、どのような価値創造のプロセスを構築し成果を高めるか、その目標と行動計画を作り実践していくことが必要でしょう。ここにも、プロセスの視点と顧客の視点との因果関係が構築されてきます。その結果、顧客が製品やサービスに対して高い評価をしてくれれば、顧客はお金を払って製品やサービスを購入してくれますから、その結果として売上や利益などの財務目標が達成できることになり、ひいては企業の価値が高まることになります。ここでも、顧客の視点と財務の視点の間に因果関係が成立します。

 一方、品質マネジメントシステム(ISO9001)は、項番4から項番10までの要求事項で構成されています。具体的に述べますと、4.組織の状況、5.リーダーシップ、6.計画、7.支援、8.運用、9.パフォーマンス評価、10.改善、とあります。これらの項番はBSCの5つの視点とマッチングしますので、BSCで目標設定すると、ISO9001の要求事項に準じた目標設定ができるという考えが成り立ちます。この考え方を前述の因果関係の流れに当てはめますと、次のようになります。

 【経営者の視点】(例えば、経営のビジョン、方針、目標などを明らかにして、どのような経営の方向を示すのか?) ☞ ISO9001の項番4,5,6に該当
               ↓
【学習と成長の視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは変革や改善の視点の目標を達成するため に、どのような組織能力や個人能力を高めるか?) 
   ☞ ISO9001の項番7に該当
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【変革や改善のプロセスの視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは顧客の視点の目標を達成するために、どのような価値創造のプロセスを構築し成果を高めるか?) ☞ ISO9001の項番8に該当
               ↓
【顧客(あるいは社会)の視点】(例えば、経営目標を達成するため、あるいは財務の視点の目標を達成するために、どのように顧客(あるい社会)の評価を高めるか? 
 ☞ ISO9001の項番9に該当
               ↓
【財務(あるいは企業価値)の視点】(例えば、財務の目標、あるいはどのような企業価値を高めるのか?) ☞ 項番9及び10に該当

 いかがでしょうか。もし読者の方々のISO9001の運用や改善にマンネリ化が目立ち始めたら、上記の5つの因果関係を思い起していただけると、ISO9001の規格条項の意味、すまわち、何のために目標や計画を作成し実行するのか、という要求事項の真の「こころ」や「狙い」を振り返る機会となるのではないでしょうか。

(参考:
高橋義郎『使えるバランススコアカード』PHPビジネス新書、PHP研究所、2007年)
日本工業標準審査会『品質マネジメントシステムー要求事項』日本規格協会、H27年)