高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

360度評価に見るリーダー像

 最近の新聞記事の見出しに「360度評価」という言葉を見つけ、なんだか懐かしい気持ちになりました。その理由は、かつて勤務していた会社で1990年代前半から社員の360度評価を実施していたからでした。たしか、筆者自身も5人くらいの同僚や上司の評価を行い、自身も他の方々から評価をしてもらった記憶があります。新聞で紹介されていたアイリスオーヤマのように、評価の結果や比較データを受け取っていたかどうかは定かではないのですが、ただ、各部門のマネージャーに対する説明会で、人事の部長が「この結果はあくまでも自己開発のヒントとして使ってもらえれば良いと考えます」などと、どこか申し訳なさそうな発言があったことを覚えています。
 そのころは、360度評価といったものは経営の仕組みに取り入れられたものではなかったのでしょう。社員満足重視経営を標榜しながらも、グローバル企業がアピールする経営管理のファッションとしての性格しかなかったのかもしれません。そうでなかったにせよ、本社の企画や目指す目的が、日本支社の人材開発部長には理解が浸透していなかったのか、あるいは部下の評価結果を受け取る幹部社員の気持ちや反発を忖度(そんたく)したものだったのかもしれません。
 経営品質やビジネスエクセレンスモデルを実践してきた筆者にしてみれば、360度評価の位置づけは理解していたつもりでしたが、4月23日の日本経済新聞の記事を読みながら、改めて経営における重要性を整理することができました。360度評価採用の背景には、まずはジョブ型雇用では従来よりも従業員の実力や専門性を正確に把握しなければ機能しないことがあります。そして、自己評価と他社評価とのギャップ分析による相互コミュニケーションが必須となるはずです。また、人事成果評価への活用のみならず、上司による評価があてにならないことや、現場社員が導入を求める声があることも、360度評価採用の推進理由として無視できないと思われます。むろん、この制度を機能させるには中途半端な取り組みでは済まないことも、多くの企業事例が物語っていることも、忘れてはなりません。
 経営品質やビジネスエクセレンスモデルのフレームワークは、リーダーシップから始まっています。2015年に改訂されたISOマネジメントシステムも類似したフレームワークになりました。筆者が当時の状況を振り返ってみると、人事部門から配布された評価項目に従って上司のアセスメントを進めていくと、日本人の上司よりも他国籍の上司のほうが評価点は高かったことに気づき、改めてリーダーの役割やリーダーシップというものが何であったのか、そのあるべき姿というものを再認識させられたことを思い出しました。
 守島基博教授によれば、成果主義の誤用でプレイングマネージャー型の管理職が増え、部下の手柄を奪う問題などへの対策として360度評価が注目されたようです。八方美人の管理職を排し、厳しくてもリーダーシップに優れる人が浮上する土壌が醸成されることを期待したいと述べておられることに、注目したいところです。

(参考:「360度評価、若手・管理職から支持」日本経済新聞、2021年4月23日)