高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

パーパスと人的資本経営

 経済産業省産業人材課が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を設置し、その結果が昨年9月に公表されたそうです。一橋大学の伊藤邦雄氏を座長として、人材版伊藤レポートが作成されたのです。経営陣は企業理念、存在意義(パーパス)や経営戦略を明確化し、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行すべきことや、経営陣・取締役会・投資家の主要な3つのプレーヤーが人的資本経営の青写真を描いていくことが想定されているようです。そして、その実践には「経営戦略と人材戦略は連動しているか」「目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略とのギャップを見える化できているか」「人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促すような企業文化が定着しているか」という視点を重要視しています。今後は、これらの企業事例や取り組みの進捗について調査をしていくものと思われ、経営品質/ビジネスエクセレンスモデルやバランススコアカード(BSC)のフレームワークに関連する研究情報としても期待したいところです。

 経営品質/ビジネスエクセレンスモデルやバランススコアカード(BSC)では、人材を資源というよりは無形投資の対象となるべく資本として位置付けられているものですが、ISOマネジメントシステムでは人的資源としての見方が強い印象があります。組織と個人のパーパスが重なり合うところで変革の力が生まれてくることを、伊藤邦雄氏も述べているところですが、経営品質/ビジネスエクセレンスモデルやバランススコアカード(BSC)も同様の考えを有していると理解をしています。

 新聞記事によれば、丸井グループの青井浩社長は、無形投資における人材・研究開発投資の売上収益に占める割合を指標として示していましたし、10年かかった企業文化の変革も含めてパーパスに合致した人材を培う方向を目指しているとの講演をしています。また、花王の澤田道隆会長も人的資本指標を策定し、財務指標+ESG指標+人的資本指標の3指標を構想し、人的資本は中長期の投資効果を示す指標の一つとして別建てで考えているところに同社の人的資本経営(経営戦略に連動した人材戦略)の特徴があるように思えます。

 ところで、上記の記事を読んでいると、文中にパーパスという用語が多く使われていることに気づきます。パーパス(Purpose)は目的と考えてしまいますが、経営戦略やブランディングでの用語として「存在意義」を示すとも言われています。ミッションと類似しているのかなとも思われますが、パーパスから戦略や人材まで一連のビジネスモデルを策定していくキーワードになるのでしょう。ソニーグループの会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏は、ソニーのパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」だと言います。感動の主体は人であると位置づけ、そのメッセージに対して社員の共感や納得感が高まってくることが期待されているようです。

 ただ、今頃になって何故「企業価値を創造する人的資本経営」にスポットを当てた取り組みを経済産業省が始めたのか、少しばかり遅きに失するという疑問を感じるところではあります。それだけ、日本の企業社会では、人という存在が軽視されてきたのかもしれません。

 (参考:「人的資本の価値を最大限に引き出す経営とは」日本経済新聞、2021年4月27日)