高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

ESGが変える会計の曖昧さ

 会計の視点で企業経営を見ていくと、たとえば管理会計では固定費と変動費に分けるなどの考えが出てきます。ひとつの例を取り上げると、人件費は固定費に分類され、同じ人件費でも外部委託の費用は変動費として扱われることが多くあります。ただ、最近の議論には、既存の財務諸表は環境や社会問題に関する損益が捨象されており、企業の価値を完全には表していないのではないかとの疑念も出てきているそうです。

 そのような議論の発端は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の様々なトライ・アンド・エラーの取り組みを通じて認識されはじめたと聞きました。日経新聞の記事によれば「温暖化につながる大量の二酸化炭素を排出することにより、企業は環境費用を外部化していることになる。そのコストは差し引かなくてもよいのか」といったような疑問も呈されていました。そして、米ハーバード・ビジネス・スクールの「インパクト加重会計イニシアチブ(IWAI)」が、そうした疑問に会計面から取り組もうという動きが始まっていることも紹介されていました。ちなみに、IWAIを主導している某教授の調査では、環境保護などのコストをさらに差し引くと、2018年にEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)が黒字だった約1700社中、540社ほどは利益が25%以上減ったと報じられています。

 この記事の中で筆者の興味を誘ったことは、給与というものは単にコストとして捉えられがちですが、利益を圧迫する費用と見なすことの妥当性でした。なぜならば、従業員への手厚い給与は、人間の社会生活を向上させるという価値を創造しているのではないかという見方もあるからです。同教授の論考では、ESGのS(社会)の論点のひとつとして「賃金の質」を取り上げ、「社会的に最低限必要で公正と考えられる水準を上回る部分の給与は、従業員の生活水準の改善や満足度の向上に結び付きやすく、したがって、費用ではなく社会的な価値の創造と考えるべき」という論考でした。たとえば、インテルは「賃金の質」のインパクトは65億ドルで、これだけの金額をインテルは社会に貢献しており、ESG投資の面でも肯定的に捉えられているという考え方です。

 会計という仕組みが曖昧さを持っているとの前提で話をすれば、ESGがその曖昧さを正していくことが可能な立場にいるわけで、その結果として企業の評価の視点がダイナミックに変化することにもなるのでしょうか。従業員の給与が、バランススコアカード(BSC)の4つの視点のどの視点に位置づけされていくのか、その因果関係の再考も含めて、今後の識者の研究を見守っていく必要があると思われます。

(参考:小平龍四郎「ESG15年、進化する会計」日本経済新聞、2021年4月20日)