高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

日本企業のSATORI考

 某歴史小説家の講演録を読んでいたら、ある宗教法人主催の講演会で「悟りの境地に達すると小説が書けなくなるので私は悟らないようにしている」といった主旨の冗談話をして、聴衆の笑いを誘っていたくだりがありました。煩悩ばかりを抱えながら毎日を過ごしている筆者にとっては、悟りなどという境地は想像することが難しい概念ですが、最近の新聞記事に「SATORI」というキーワードが紹介されていて、環境の激変が成長の機会でもあると悟っている日本の経営者が少ないとの嘆きがコメントされていた記事が目にとまりました。

 SATORIとは、Society(社会)、Agility(俊敏)、Technology(技術)、Overseas(海外)、Resilience(復元)、Integration(融合)の頭文字で、その記事のコメンテーターは、日本企業の経営者に危機を乗り越えるSATORIはあるかと問いかけていたのです。環境が変わっても成長できる企業であり続けることができるのか、コモンズ投信の株式投資信託「コモンズ30ファンド」が30年間成長できる日本企業を物差しに銘柄を選んでいることに注目をしていました。10年かかる変化が1年で起きている激変の時代を迎え、SATORIは企業の生存競争に打ち勝つキーワードとして捉える必要があるのかもしれません。

 リモートワーク、データを駆使した在庫管理、会社全体を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)など、企業が先送りしてきた課題のマグマは、コロナが「非接触」という圧力を加えたことで噴出したことにも触れ、激変に対応できない企業は瞬く間に退場を強いられることになるのでしょう。言い換えると、30年後のビジネスの世界や生き残り企業の予想は難しいが、それまで何度も訪れる逆境を乗り越えられるかは今でも見極めることができるというのです。

 記事のコメンテーターは、2019年末と今年4月末の時価総額順位を比較しながら、Society(社会)ではエムスリー、Agility(俊敏)ではSGホールディングス、Technology(技術)ではレーザーテック、Overseas(海外)ではシマノ、Resilience(復元)ではユニ・チャーム、Integration(融合)では日本電産を企業の例として挙げています。前述のように、日本企業が環境の激変が成長の機会でもあると悟っている日本の経営者が少ないとの嘆きに加えて、変化におびえる日本の経営者像が浮かび上がる調査結果にも触れていました。

 私事ですが、企業を訪問して経営陣の話を伺うたびに、経営者や管理者の人材不足を嘆く声が多く聞かれます。今回の参考にさせていただいた記事にもあるように、「ディスラプションを乗り切る自信が大いにある」との日本企業の回答比率が中国や米国の半分にとどまり、逆に脅威と捉える経営者が主要国で最大であったという事実にも鑑み、失敗を恐れてリスクを取れない風土こそ、日本企業の将来における最も重要なリスクと言えるかもしれません。

(参考:梶原誠「30年後、その会社はあるか」日本経済新聞、2021年5月15日)