高橋義郎のブログ

「5つの視点の因果関係で考える経営」をバランススコアカード(BSC)、経営品質、ISO経営、江戸東京などで考察するサイト

鏡という歴史から学ぶ姿勢

会社のオフィスや工場などでよく見かける光景のひとつに、「過去のトラブルから学ぶ」という活動があります。例えば、職場のメンバーが集まり、額を寄せ合いながら製造工程で発生した不良品のサンプルを眺めながら何故このような不良品が出来てしまったのか、その原因を特定し改善の方法を議論し合いながら再発の防止に向けた仕組みづくりや教育訓練をしていく、いわゆる「学びの場」を設けている事例と言えましょう。世の中では学習する組織という言葉もよく使われているように、「学習」という言葉には前向きで真摯な取り組み姿勢が感じられます。特に再現性のある技術システムの領域では、このような学習の機会は誠に有効な機会と思います。

一方、我が身を含めた人間の関わる社会システムの領域では、学びはあるにせよ、すぐに忘れてしまったり同じような問題や行動を繰り返してしまったりで、技術システムの世界と比較すると学習効果が違ったもののようにも思われます。それは歴史を見ても頷けるようで、「歴史は繰り返す」などという格言にも象徴されている印象があります。本来であれば人は歴史に学ばなければならないという識者もいて、例えば小林秀雄は「昔は『増鏡』とか『今鏡』とか、歴史のことを鏡と言ったのです。鏡の中には君自身が映るのです。歴史を読んで、自己を発見できないような歴史では駄目です」と講演で述べています¹。賢者は歴史から学ぶという言葉からも、鏡としての歴史を再認識することの大切さを小林秀雄は説いているのです。

東京大学名誉教授の姜尚中氏が、NHKラジオ第二の文化講演会で夏目漱石の『硝子戸の中』を引用しながら講演をしていた語りでは、「漱石がこの本を書いた時代と現在はとてもよく似ている」と喝破していました²。姜尚中氏もまた、歴史という鏡に現在の世相を映しながら、ある意味で不気味な時代の到来を予感しているのかもしれません。

(出典)1.『学生との対話』(小林秀雄、新潮文庫、p.139)、2.NHKラジオ第二放送「文化講演会」(2018年2月25日放送)