高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

ワークマンのSCMに見る全体最適化経営

 サプライチェーン(SCM)全体で無駄を省き、調達量の適正化を図るために、店頭在庫や倉庫の空き具合のデータを取引先メーカーに開示する。その取り組みで味方を増やす経営が、ワークマンで行われている。その成果として、作業服の需要予測が高度化し欠品率7%が4%になり、既存店売上高の前期比伸び率は14%、株式価値総額は2年前と比較して約3倍になった。
 その原動力に昔ながらの「エクセル」を駆使した全社員がデータを基に議論する仕組みづくりがある。約100坪(約330平方メートル)の売り場に常時1700品目の商品を陳列する。以前は発注だけで毎日2時間かかっていた業務が10秒で完了。空いた時間は接客や営業などに使えるため、顧客満足も高まる。その成功要因は、全社で進めたデジタル化。入社2年目から研修を徹底し、エクセルの「関数」は必須スキルに。営業担当はタブレットを片手に、独自の分析ソフトを駆使し、地域ごとの売れ筋商品や販売ピーク月などをデータベースから導き出す。
 結果として、需要予測の高度化という成果が顕著に表れた。高度な人工知能(AI)ではなく、身近なエクセルを使っているので、因果関係を理解できるシステムの方が社員全員が使いこなせる。アパレルチェーンでは、一般的に何が売れるかを予測し、適正量を仕入れて売り切ることが収益を左右する。見込みを外すと過剰在庫を抱えて苦しむ。
 ワークマンは、この予測作業を大幅にシステムに任せようとしている。店長がレジ端末の「一括発注」ボタンを押すだけで納品される仕組みを導入したのだ。作業服は一般的なアパレル商品とは異なり、少なくとも10年程度は売り続ける。ワークマンは品揃えの97%を全国で統一し、店舗レイアウトも標準化している。そのため、どの商品を店舗のどこに置けば、いつ売れるかというデータが膨大に蓄積されている。このデータや直近の売り行きを基に、発注すべき商品の種類と量を算出。個別店舗の発注作業を自動化し、適正な在庫を保てるようになった。
 この自社カスタマイズシステムにより、FC方式で展開する店舗で経験の少ない店長でも、発注作業で戸惑わずにすむ。それに、過剰在庫を気にするあまり機会損失発生の問題解決にもなる。データ分析力も部長昇進ねお条件としており、経営の方向は明確だ。「ワークマンプラス」が低価格でデザイン性の高いアウトドア衣料も立ち上げて顧客層も広がる中で、エクセルを軸にしたSCMの全体最適化経営は、より重要な経営ツールになっていくのではないだろうか。これからの進化が楽しみだ。

(出所:日本経済新聞、2019年7月9日、15面)