高橋義郎のブログ

「5つの視点の因果関係で考える経営」をバランススコアカード(BSC)、経営品質、ISO経営、江戸東京などで考察するサイト

時代劇にみる知財戦略

テレビ番組は選んで観ることが多いのですが、NHKのBS時代劇は、そのひとつです。最近(といっても再放送でしたが)放映されていたBS時代劇は「銀二貫」で、大阪にある寒天問屋の物語でした。武士の子であった主人公が寒天問屋で働きはじめ、故あって硬い寒天の作り方を寒天製造者のもとで開発する。その次に、その寒天を使っ練羊羹の開発にも成功するのですが、「菓子屋を始めるのか」という寒天問屋の主人の問いに、「大手和菓子屋に練羊羹の製造ノウハウを譲与し広めてもらい、その代わりに寒天を大量に買ってもらいます」との提案が・・。その戦略どおりに寒天は大売れし、懸案だった銀二貫を天神さんに寄贈することができたというお話でした。

この時代劇を観ていて、「練羊羹の製造ノウハウを菓子製造業者へ譲渡して市場を拡大したこと」は知的財産のオープン戦略にあたるでしょう。一方、「硬い寒天の製造ノウハウと製造元は秘密にして一手に独占販売権を保持することは知的財産のクローズ戦略」と言えるでしょう。

結局、菓子製造業者はホクホクであり、その市場は拡大していくにつれて寒天問屋のビジネスも大きく成長することになり、典型的な三方よしのビジネスモデルが実現したことになります。知的財産のオープン&クローズ戦略については、関連情報が多く公表されているので本ブログでは説明を省きますが、江戸時代で活躍した大阪商人のビジネス感覚は、現代にも通じるものがありますね。

スキルマップ再考

最近のビジネス誌の記事や識者との会話の中で、スキルマップという言葉を見聞きすることが何度かありました。スキルマップと言えば、筆者が会社に在職中にISOマネジメントシステム導入担当となった折、力量に関する規格要求事項に対応するために各事業部門で作成してもらったことが記憶にあります。そのときはISOマネジメントシステムの審査への対策として作成しているといったような気分があり、規格が目指す本来の意図とは乖離があった活動だったかなと反省の気持ちも含めて振り返ることしきりです。

その反省のきっかけとなったのは、1990年代後半に出会ったビジネスエクセレンスモデル(経営品質賞のフレームワーク)、特にEFQM(欧州品質賞)の9つのカテゴリーの因果関係を知るに及んでのことだったろうと考えています。9つのカテゴリーの因果関係とは、①(リーダーシップ)→②(方針と戦略)→③(人材)→④(経営資源とパートナー)→⑤(プロセス)→(⑥従業員・⑦顧客・⑧社会の結果)→⑨(事業の成果)という構成であり、この因果関係の流れは現在のISOマネジメントシステムのフレームワークに取り入れられ、特にISO9001(品質マネジメントシステム)ではその傾向は顕著に見られます。力量やスキルマップに関連するカテゴリーは「人材」であり、その前後の因果関係を考えると、なぜスキルマップや教育訓練計画、それに実施結果の有効性確認が必要で大切なのかが分かってくることでしょう。

スキルマップと言えば、老舗ステークチェーンの「あさくま」を率いる廣田陽一社長も「人材の育成については、各店舗の店長に社員一人ひとりのスキル一覧表や育成計画を作成し、隔週ベースで本部に提出する仕組みを取り入れた」、「社員自身にスキルの過不足を把握してもらったり、それぞれにふさわしいポジションやチャンスを与えたりするための材料として役立てている」などのようにインタビューで述べています(出典:日経ビジネス、2026年7月6日号)。

筆者を含め、経営管理やISOマネジメントシステムに関わる実務者には、示唆に富んだ話ではありませんか。

 

幸福価値創造について

日本生産性本部が主宰している日本経営品質賞の受賞組織の受賞報告発表会が、毎年2月ごろに都内で開催されてきました。筆者も一時期まで参加させていただき、経営品質向上への取組み事例から多くの気づきをもらえた良い学びの機会でした。その中で、2013年日本経営品質賞の大規模部門で受賞したワン・ダイニング社は、筆者にとって印象に残る企業のひとつです。

日本経営品質賞のホームページによれば、同社は関西地区を中心に主に郊外を中心に焼肉レストラン、しゃぶしゃぶレストランの事業を展開し、基本の徹底による店舗価値向上に向けた継続的な取り組み、第一線のアルバイトの戦力化と成長の場の提供、スピード感をもった改善・革新に向けた取り組みなどが特筆された経営の取組みとのことでした。

記憶によればBSC(バランススコアカード)も導入していて、その点においても筆者の参考になる企業事例でした。大学の講義ではBSCの事例としても紹介させていただきました。意外にも同社のレストランでアルバイトをしていた履修生もおり、講義が終わってから「今日の講義を聴いて、なぜレストランの店長が朝礼で同じような話を繰り返しするのかが理解できました」と言ってくる学生もいました。

ワン・ダイニング社の受賞報告発表の中で印象に残っているキーワードは、同社に関わりのある全ての方の「幸福価値創造」を目指すと話されていたことで、「2時間の幸せ」という言葉でも表現されています。

2時間の幸せといえば「3分間の幸せ」というのもあるようです。例えば百貨店では高額の超高級品を販売するだけではなく、量販店やチェーン店にはない少しだけ値段の高い商品を多くの消費者に提供し、日常の生活にささやかな潤いや幸せをもたらすことも百貨店の魅力であり、ある専門家によればこれを「3分間の幸せ」の提供と呼んでいます(出典:日本経済新聞、2026年7月6日付)。

3分間の幸せを提供する百貨店も、他業種との差別化を図る意味でも重要な経営方針として実践していくべき価値提供と思われますが、幸福価値創造を目指すことは、多くの企業にとっても共通した理念に通じるものの、なかなか実現する仕組みを作り実践し成果をあげることは容易なことではないでしょう。顧客満足から顧客の感動へ、顧客価値をどのように創造し提供していくのか、経営品質賞の資料を読み返しながら振り返りをしている今日このごろです。

ミスミの経営に見るBSC的考察

三枝匡氏といえば、株式会社ミスミグループの再建に取り組んだ名経営者として広く知られています。その三枝氏の著書『V字回復の経営』や『戦略プロフェッショナル』は筆者も興味深く読ませていただきました。ミスミは今なお更なる進化を遂げている途中と思われますが、今回は「ミスミの神業支えるデジタル技術」(日経ビジネス、2024年02月19日号)の紹介記事を取り上げさせていただき、拙書『経営は5つの視点の因果関係で考える』のフレームワークを使って簡単な企業分析をしたいと思います。

ちなみに、改めて5つの視点の因果関係を整理してみると、
①組織が目指す方針・目標・戦略の方向を明らかにする(経営の視点)
②それらを実現する人的及び物的な経営資源を確保する(組織・個人能力の視点)
③目指す目標を達成するプロセス変革や顧客価値創造を実践する(変革・価値創造の視点)
④目指す目標を達成できる市場や顧客の評価が得られているか把握する(市場・顧客の視点)
⑤それらの結果として企業価値や財務目標の達成状況を把握する(財務の視点)
という流れで、BSC(バランススコアカード)のフレームワークとほぼ同じであり、それぞれの活動のPDCAを回して正のスパイラルを回していくことを目指しています。

この5つの視点の因果関係のフレームワークを用いて、以下のように「ミスミの神業支えるデジタル技術」の紹介記事(前掲)を紐解いてみたいと思います。
①経営の視点:モノではなく時間という価値を顧客に提供する、AIなどのデジタル技術活用による超高効率ものづくりを実現
②組織・人的能力の視点:3D2M(3D図面データtoマニュファクチャリング)コンセプトによる製造モデルの確立
③プロセス変革・価値創造の視点:自動見積システム(メービー)による迅速な価格・納期提示、電子差立てシステムによる多品種少量生産対応への金型部品及び受注部品生産計画策定、自社開発による研削盤による製造時間・作業工数の革新的な短縮、加工プログラムの自動生成システムによる最短時間加工実現、金型部品リードタイム、生産性、金型部品コストの大幅改善の実現
④市場・顧客の視点:すべてがワンストップのウエブサイト上で完結できる製造業のアマゾンと呼ばれる企業との評価をされている、毎日平均18万件以上の受注に対する標準納期(2日)と納期遵守率(99.9%)の実現
⑤企業価値・財務の視点:モノづくりの革新を続けるミスミの成長の実現

ミスミの経営を5つの視点の因果関係で考えてみると、「モノではなく時間という価値を顧客に提供する」という「コト」において、戦略の方針を実現する変革プロセスと顧客価値創造の仕組みと実践に凄みを感じる次第です。

 

知財戦略の分析モデル②

前々回に引き続き、知財戦略の分析モデルについて触れてみることにします。前々回では5つの視点の因果関係を、①知財戦略の方針・基盤づくり→②知財戦略実現への人的及び経営資源の確保→③知財戦略実現への創造プロセス変革→④創造された知財と戦略への評価→⑤知財戦略の収益化、としました。

今回は少し表現を変えて、①知財経営戦略の理念・方針・目標の設定→②知財戦略への高い組織能力と人財能力の確保→③知財創造や優れた製品やサービスの価値創造→④顧客・社会からの高く良い知財価値評価→⑤知財の収益化としての財務成果確保とし、日経ビジネス(2025年6月2日号)で取り上げられたレゾナック・ホールディングス社の紹介記事をもとに、以下のように筆者が分析をしてみました。

①日本の強みである素材産業(特に半導体に注力)の知財戦略の高度化を推進、企業統合で知財シナジー実現
②IPデザイナーの役割を明確にし自社に有効な特許考案、知財部内で技術や新製品の軸で戦略を検討するグループ創設、AI活用で特許調査時間短縮
③技術保護だけではなく積極的に技術アピールする攻めの知財戦略、競合からの特許引用数と海外出願数を含めた価値を指標化し競争力のある特許出願推進
④顧客に感心して採用してもらえる提案の創出、顧客から「レゾナックとまず話をしてから一緒に仕事をすべき」と言われる事業機会の創出
⑤日立化成と昭和電工との経営統合による知財戦略の成果実現(知的財産の収益化)

前掲の日経ビジネスの記事によれば、「知財戦略推進のための体制づくりとして知財担当者にIPデザイナーという肩書を持たせ、特許の収得作業だけではなく自社に有効な特許構成の考案や活用方法を探らせる役割も明確にし、また知財部内で従来の製品単位ではなく、技術や新事業といった軸で戦略を検討するグループも創設するなどの取組みにより、社員の意識も変わりつつある」という効果も出ているとのことでした。以上、5つの視点の因果関係で考える知的財産戦略の分析についての試みでした。

 

報告メモの効用

ある運送会社の管理職研修での話です。毎月1回、10時から17時までの研修で講師を担当していたところ、受講されていた女性社員から「アイデアや考えを生み出す秘訣や工夫の方法があれば教えてください」という質問を受けたことがありました。筆者の研修ではアクティブ・ラーニングの手法を取り入れたためか、受講メンバー間での気づきや発想などを重視する気分が強くなってきたようで、それが質問の背景にあったと思われました。

そこで、まずは情報収集を経て整理・分析をすることから始め、それらの情報から何事かを読み取る習慣をつけること。そして、自分の考えとの比較をすることによって新たな発想や気づきを見つけることを継続的に実践することが大切であり、その手段のひとつとして自分のノートに書き残すことを推奨した覚えがあります。

デジタル化やAI世代からは時代と逆行するし、いちいちメモするのは面倒だと言う声も聞こえてきそうですが、やはり手を使って取材情報をメモし、自分自身の気づきや考えを書き連ねて整理・分析するという行為は自分自身の脳を活性化させますし、悪いことではないと考えられます。

サカナAI共同創業者・社長の伊藤錬氏も、人材育成の工夫のひとつとして「情報収集文化の導入」を挙げています。取材や報告のメモ作成と共有を社内で強く求め、それらのメモを比較し、矛盾があれば深堀をし、時代の大きなうねりをつかみたいと話していました。そして、この方法こそが、動きの速いAIの世界で先入観にとらわれず正しい進路に会社を導くための唯一の方法だと確信していると喝破していました。(以上、日本経済新聞(2026年6月4日付)「私のリーダー論」より一部引用)。

聞くところによれば、ユニ・チャーム創業者の高原慶一郎氏も人の話を聞くときは必ずノートにメモしながら対応していたとのこと。日常の中で出会った情報をメモし、感じたことや気づきを書き続けることで、人から学ぶことを忘れない姿勢の表れとも言われています。偉大な業績を残した経営者は、常に人から学ぶことも忘れなかったという教訓を、私たちは知らねばなりませんね。

 

知財戦略の分析モデル①

数年前に桜美林叢書『経営は5つの視点の因果関係で考える』という書籍を上梓させていただきました。5つの視点の因果関係は多くの経営や業務に当てはまり、例えば、ビジネスエクセレンスモデルやISOマネジメントシステム、それにバランススコアカード(BSC)などと親和性があり普遍性もあるフレームワークと位置付けられています。そのため、筆者も大学や大学院の論文に使われる考察理論のひとつとして、また、企業分析などの枠組みとしても多用してきました。院生の中には修士論文で研究対象として選択した複数の企業の比較分析に苦慮しているために相談に来られ、そのときには整理・分析の一例としてBSCなどの基本概念である「5つの視点の因果関係」を紹介し、論文を完成してもらったことも少なくありませんでした。

最近では、知的財産戦略を5つの視点の因果関係で分析してみようという試みもあります。例えば、東京エレクトロンの公開情報を用いて上記のフレームワークで整理・分析してみると、以下のようになるのではないかと推察します。

①知財戦略の方針・基盤づくり:知的財産部の設置と任命、自ら考えて取り組む文化の促進、特許数増加と技術力強化の知財戦略策定
②知財戦略実現への人的及び経営資源の確保:発明者への表彰制度、特許の発明者:累計5千人(50%増)
③知財戦略実現への創造プロセス変革:特許技術的価値向上(平均スコアの2倍以上)、シフトレフトで開発・知財との早期擦り合わせで優位性強化
④創造された知財と戦略への評価:特許価値成長力ランキングで第1位(スコアで923ポイント)を獲得
⑤知財戦略の収益化:知財貢献財務成果、事業拡大の実現
(以上、「日経ビジネス、2025年6月2日号」での掲載記事を参考に筆者作成)

ご覧のように、かなり粗い分析ではありますが、知財戦略にも5つの視点の因果関係が当てはまることが確認できますね。これからしばらくは、同様の手法でいくつかの企業の知財戦略を整理・分析してみたいと思います。読者の皆さんのご意見を賜ることができれば幸いです。

 

私見:コア業務とノンコア業務

ある企業で「コア業務とノンコア業務」についての質問をいただいたことがありました。日本企業でよく見られるノンコア業務の判断基準の一例として、「外注できる業務」「外注したほうが良いと思われる業務」がありますが、ただ、この考え方は判断基準が曖昧で、「外注できる業務」がその組織の価値創造や顧客価値を生む重要な業務であったりする場合もあり、安易な判断には注意が必要です。

コア業務は業務職掌に書かれていることが多いと考えられます。まんなかに定款があり、ついで社規があって、それにもとづく権限があり、そして業務規程があって、各人のやる仕事が決められて契約を結んで入るなどの例は、その人のコア業務を規定しているのでしょう。(以上、『日本文明のかたち』司馬遼太郎、文芸春秋より引用)

一方、事業戦略方針によっても変わることもあります。事業が目指す戦略目標を達成するために、バリューチェーンを構成する各部署が何をすべきなのかがコア業務と定義する場合です。例えばK社の場合、N氏が社長のときは商品の鮮度管理が重要な戦略目標となっており、その実現のために各部署が何をするのか、それが各部署のコア業務と言えたでしょう。

その後にトップとなったM氏は、鮮度管理は一段落したので生産効率(生産性)を軸にした事業方針を打ち出したことによって、各部署は生産効率(生産性)を高める方針に向かって決定される具体的な主要業務が新たなコア業務と定義されるでしょうし、現場もその方針に基づいた判断や決定が自律的に行うことができますね。それが「ブレない」事業経営の意思決定へとつながっていくはずで、不確かな要因でいたずらに右往左往して業務コストを高めてしまうリスクを低減でき、全体最適な経営が実現できているとも言えましょう。

各部署、各人がそれぞれの業務の質を高め(プロアクティブな業務)、それぞれの業務で作られる価値をプロセスフローの流れに沿って次工程に必要なレベルの価値を提供していく。その結果としてバリューチェーンの価値向上と強化を図ることができ、そのために各部署が決定する主要業務が、新たなコア業務と言えるのではないでしょうか。まずは各部署で、どのような仕事を行い、どのような価値を作り出し、次の部署や工程に求められる価値を提供していくのかという視点で、コア業務とノンコア業務、KGIとKPI、それにアクションプランを検証していくことが必要と思いますが、いかがでしょうか。

 

わくわく感ある店舗づくり

かなり以前の話ですが、EFQM(欧州品質賞:European Foundation of Quality Management)を理解するために、日本経営品質賞をベンチマーキングさせていただいた時期がありました。その日本経営品質賞の推進に大きな貢献をされていたコンサルタントが、「しまむらが家の近くにあるというと、ちょっと恥ずかしいと感じる方々がいらっしゃいます」というエピソードを話していたことを記憶しています。当時のしまむらは、どちらかといえば郊外に店舗を広げていたということだったようです。

前回、しまむらの「友達のようなマニュアル」について触れましたが、私事で恐縮ながら、最近まで我家の近くにも「しまむら」がありました。が、昨年からスーパーマーケットのCOOPに入れ替わり、人によっては残念とも便利になったとも、意見が分かれているようにも聞きます。しまむらがなくなって何故残念なのか、そのあたりは経営学の見地からすると興味のあるところですが、そのキーワードは、低価格と宝探しにあるようです。

日経ビジネス(2026年5月25日号)の記事によれば、しまむらはユニクロの方針を真似たために価格競争と宝探しの魅力が同時に失われた反省から、特に「種類の豊富さ」と「宝探しのような購買体験」の2つこそが顧客価値だと再定義し、物価高でも低価格を軸に顧客の心を捉え、併せて全社で物流からシステムまで効率化を図り、インフレ下での強さを発揮し復活を果たしているとのことでした。物流・IT企業を目指した工夫により「行くたびに違う商品を楽しめる店舗作り」を可能にしている取組も見逃せません。

しまむらに限らず、来店する人々が「わくわく感」を感じられる店舗づくりでは、顧客が集まってくることは間違いなさそうです。企画が優れた店舗では、顧客の創造が具現化している経営といえるでしょう。

 

友達のようなマニュアル

企業や役所をはじめ、多くの組織にはマニュアルと呼ばれる規定や手順書があります。マニュアルというと、日本の社会では窮屈な印象を持たれることがあるように言われますが、筆者が外資系企業に勤務していたころに出会った海外の社員たちにとっては、マニュアルは身近な存在だったようです。たとえば、マニュアルは業務職掌のような位置づけであり、仕事において自分を守るものという存在だったのではないかと感じられました。そこで決められた業務をきちんと行っているぶんには、失敗しない限りお咎めはないということでしょう。

一方、日本の社会ではマニュアルというと柔軟で機動的な業務を阻害する要因とも思われてしまいがちで、そのうえ、欧米のマニュアルと比べると柔軟性や例外処理を想定した作りの傾向が強い傾向が感じられます。そうなると、現場にとっては使えないマニュアルとなってしまい、しぜん、神棚に納められて飾られているような存在になっていくのでしょう。せっかく時間と費用をかけて作成したのに、結局は「いままでの経験や教えられたように業務を行っていればマニュアルは必要ない」といった、なんとも残念なことになっていきます。

ただ、マニュアルを経営や業務の中に溶け込ませて役立てている組織も多くあります。その一例が、書籍やメディアでも事例が紹介されている無印良品の店舗を展開する株式会社良品計画でしょう。代表的な書籍に「仕組みが9割」がありますし、経営学の領域でも研究対象となっているようです。最近の記事の中では、アパレル大手の「しまむら」が紹介されており、日経ビジネス(2026年5月25日号)にある「マニュアル改善に提案1万件」という小見出しの記事を要約すると、

・しまむらは仕組みの硬直化を防ぐ仕組みづくりがうまい。
・数十年続く「マニュアル改善提案制度」では、全社にどれだけ良い影響を与えるかという評価基準で賞金を配る。
・改善提案を考案したら近隣の数店舗で効果を検証してから提案する。

などとあり、時間短縮、コスト削減、顧客目線での価値向上や業務改善の仮説検証をする仕組みがうまく機能しているようです。

マニュアル、規定、手順書などが陳腐化して業務の現状との乖離が発生している事例も多くあると聞きます。停滞を生むマニュアルではなく、成長に向けて後戻りしない組織づくりに如何に活用できるかが、組織の更なる成長と価値創造への分かれ道になるかもしれません。

 

職場でどの数字を管理すべきか

企業の方々と話をするたびに聞いてみたいことがあります。それは、「もし社長や上司があなたの職場に来て、仕事はうまくいっているかと聞かれたら、どのように答えますか」という問いです。たとえば、はい、頑張っています、と答える人もいるでしょうし、元気でしっかりやっています、という人もいるでしょう。社長や上司が挨拶がわりにいつも同じことを聞くものだと受け止めている社員は、そのような回答をしてやり過ごす気持ちでいるのかもしれません。

でも、社長や上司は案外本気で聞いているのではないでしょうか。お金も時間も権限も提供しているのに、本当に実のある仕事をしてもらっているのかしら、というのが本音ではないかと筆者は推察しているのですが・・。そこで期待される回答とは何か、たとえば「はい、うまくいっています。なぜなら、〇〇の目標に対する達成状況は○○のように良好ですので、将来のリスクや機会に備えて〇〇という必要な手配も済ませてあります」というふうに答えてもらえると、問いを発した社長や上司も、きっと安心し納得し、ひいては信頼感を持てるという具合になりますね。

よって、そのためには職場ごとに上位目標を展開した独自の目標の設定や、その達成状況を把握する仕組み、KGI、KPIを明らかにしておくことが必要でしょう。イトーキ社長の湊宏司氏も「(職場のリーダーが)どの数字を管理すべきなのか分かっていれば、必要なデータ・情報を社長や上司に伝えられるし、それが(職場のリーダーの)務めです」と述べています。(出典:「経営教室」日経ビジネス、2026年6月15日号)

湊社長は外部出身で、インターナルコミュニケーション(社内広報)、タウンホールミーティング、女性活躍推進コミュニティー、工場アンバサダー、シンプルな報告などを社内で展開しているとのこと。ひょっとすると、「あなたの職場の仕事はうまくいっているの?」と聞き歩いているかもしれません。

 

目標達成への3W1HとPDCA

目標を達成する計画を見てみると、頑張るとか次月に挽回するなどのような気合のような表現を書いている事例が見られることがあります。具体的な計画になっていないということですが、それでは具体的な計画を書くにはどうすればよいですか、などといった質問を受けることも少なくありません。

目標達成へのマネジメントは、成果目標設定と達成のための実施計画立案→実施計画の実践(実行目標達成度)→目標が達成できたかどうかの確認(成果目標達成度)→次のアクションの設定、といった目標管理のPDCAサイクルを回すことが必要となります。そのために、実行目標達成度(進捗度と言っても良いかもしれません)が把握できるようにするには、「5W1H(何を、誰が、いつまでに、どこで、どのように)」、少なくとも「3W1H」と加えて「どのくらい」で書くことが求められるはずです。

しかし、せっかく時間と工数をかけて作成する目標達成への計画作成は、あまり上記のようにできていない事例が見られることは残念でなりません。自分たちの目標達成への計画づくりだけではありません。報告やフィードバックをする場合でも、5W1Hで行うと聞き手(例えば上司や顧客など)にとっても納得感が大いに高まることでしょう。

「フィードバックには作法が必要」という記事(日本経済新聞、2026年5月28日、高橋氏)にもあるように、「5W1Hをベースにアイデアを聞いたときに自分が想像できなかった部分を質問することを繰り返すと、だんだんとお互いの頭の中でアイデアの詳細ができ、(中略)相手からこんな機能が必要かもしれないといった、より具体的な要件が引き出され議論が活性化する」ことも期待できます。

PDCAサイクルといえば、かつて「販売の科学」という本を執筆された唐津一氏は、「日本人は普段の生活ではPDCAを回すのに仕事では回さない」と残念がっていたと記憶しています。ゴルフではショットするごとにPDCAを繰り返していますし、外食でも店の決定(P)→店で食事(D)→料理の満足度(C)→リピーターになるか他の店を選ぶか(A)というサイクルを回しているはずですね。仕事でも是非ともPDCAを回してより良い成果をあげて欲しいものです。

 

リーダーの内部コミュニケーション

リーダーの役割としてよく挙げられるのは組織の方向を示し、組織の目的を達成するために人々を動かしていくことなどと言われています。経営品質のフレームワークでもISOマネジメントシステムでも、リーダーシップから始まる理由はそこにあると思います。そのリーダーシップを発揮するためには、経営者の想いを何度も何度も繰り返して伝え、皆で行くべき方向や、現場で適切な判断ができるような基準や情報を伝達し、組織で働く人々に理解と共有をしてもらう必要がありますね。

経営者の方々の中には、内部コミュニケーションに相当の時間を割いていると述べておられる方々も少なくありません。例えば、社内での伝達システムで定期的に経営のメッセージや情報を発信し、タウンミーティングにより各所で対話重視のコミュニケーションを展開するなど、はたまた、現場百回と称して経営のパーパス、ビジョン、ミッション、それに方針や目標を説いて回る行脚もよく聞かれる取組みです。特に昨今のようにあらゆる情報が錯綜する社会においては、経営情報も含めて上記のようなあの手この手の取り組みはとても大切な経営者の活動と言えるでしょう。

リーダーからの発信といえば、幕末を舞台にした司馬遼太郎の歴史小説「花神」に主人公の大村益次郎(村田蔵六)が「江城日記」という戦況ニュースとでもいうべき戦陣新聞を、江戸着任早々にその発行組織を作り発行したことが書かれています。花神とは中国での「花咲か爺」のことですが、「いま天下は非常事態である。風説が湧き、風説が流れ、風説によってときに一軍が潰乱し、ときに勝利軍でさえ投降する。味方に正確な事実をしらしめねばならない」(以上、新潮文庫「花神」(下)から引用)という戦陣新聞発行の主意を語るくだりは、現在のSNS全盛の現代背景とそっくりではありませんか。

その戦陣新聞の版元は政府お抱えの須原屋と和泉屋が担わされたとありますが、埼玉県の県庁所在地である浦和には須原屋という老舗の本屋さんがあり、ひょっとするとその版元の流れを汲んでいるのかもしれませんね。

 

財務目標達成を支援する非財務情報

10年以上前の話ですが、京都に本社を構える某グローバルカンパニーで指標の作り方をガイドする社内展開資料の作成を依頼されたことがあります。早速、同社を訪問してお話を伺うと、筆者が東京と大阪で講演をしたときに会場に来られ、そこで紹介をしたある命題への調査結果とソリューションを提示した内容にご興味を持たれたとのことでした。基本的なフレームワークとしてKPI(Key Performance Indicator)ツリーとBSC(バランススコアカード)をベースにして、「全社事業目標→グループ各社事業目標→KGIとKPIの作成・妥当性・因果関係確認→アクションプラン」という流れの策定方針で提案してみたのですが、今になって思えば、社内での展開というよりも、その作業プロセスを通じて関係する社員への意識変革をしたいというのが主目的だったようにも思えます。

提案書で意図したのは、財務目標を達成するために、どのような非財務目標と非財務指標を適切に設定して取り組むべきなのか、その作業をテンプレートや様式で仕組化することでした。余談ですが、組織の中にはいくつかの司令塔があり、それぞれの司令塔が現場に目標設定と実行を求め、現場ではあまりに多すぎる目標やアクションプランを抱えてしまった挙句に、表面的な取り繕いでの対応に留まざるを得ないという残念な事態に至ってしまうことを何度か見たことがあります。せめて現場では一つの目標に取り組めば、それぞれの司令塔が求める成果につながるような全体最適な目標管理の仕組みを整えてあげることが、マネジメントチームや参謀等の大事な役割ではないかと考えたことも、上記策定方針の背景でもありました。

財務目標達成への非財務目標と指標の在り方として、「全社横断で非財務情報を財務的影響として統合的に管理・評価できる体制を築き、それを経営判断や投資家対話に生かしてこそ、企業価値につながる経営が実現する」という青井氏の言葉が印象に残りました(日本経済新聞、22026年5月25日付より)。方針展開、ISOマネジメントシステム、サステイナビリティ、エンゲージメント向上などを併行して取り組む組織では、常に財務的影響(筆者の個人的な考えですが、例えば財務目標と非財務目標との間の因果関係と言い換えられるかもしれず)を考慮しながら設定する非財務目標・指標の妥当性を模索していくことが大切ではないでしょうか。

 

リードタイム短縮と収穫逓増

生産管理の話になると必ずと言って良いほど出てくる言葉にリードタイムがあります。最近では生産管理のみならず、環境負荷低減での先行指標としてリードタイムが語られることもあるようで、例えばリードタイムが短くなると、エネルギーなどの製品1個あたりの環境負荷が減るといった考え方です。その伝で言えば、不良率や歩留まりなどと同じように、リードタイム短縮を環境改善目標として捉えても理に適っています。ただ、リードタイム短縮により、どのような環境負荷がどのくらい改善されるのかという環境成果も導いてほしいところです。

リードタイムは生産現場で言うところの製造時間という狭い定義で使われることが多いと思いますが、経営の視点で考えると、受注から納品までの時間という、より広い領域でも活用される指標です。中山淳史氏は日本経済新聞(2023年3月9日付)の紙面で、安川電機とアップル、それにファッションブランド「ZARA」の事例を示して、「リードタイムの短縮と安定化が収穫逓増につながる」ことを記事で述べていました。加えて、「リードタイムの短さとともに、何があってもそれを安定させるノウハウ」であることに注目しています。そして、それらの経営の好循環の成果として収穫逓増(図示された事例では、縦軸に営業利益率、横軸に売上高指数)を紹介していました。

バリューチェーンでのリードタイムでもボトルネックが議論され、可視化をすることによって目詰まりの箇所や原因を把握し解消することでリードタイムも改善することになります。ただ、重要なことは、それらの課題を解決するために社内関係者が自分事として問題を共有し、解決へ同じ方向に向かって一丸となって取り組んでいくプロセスにこそ、真に組織の力を高める活動であるということでしょう。