読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

経営戦略及び経営品質としてのリスクマネジメント(2)

リスクマネジメント関連

7. ビジネスリスクマネジメントへの展開

この稿では、ひとつのケースを想定して説明を進めていくことにします。

B社という電動バイクを製造販売する会社があったとします。規模も小さく資本力も弱いベンチャー企業ですが、電動バイクの開発にはかなり以前から着手し、数年前に本格的販売に踏み出しました。安全性テストのノウハウも確立し、販売を開始したときには、すでに電動バイク事業の顧客リストも準備されていたほどです。

B社が電動バイクの事業に参入した背景には、エコ・スローライフの浸透や環境意識の高まりを受け、電動バイクは大きく伸張するとの判断があったからです。最初は「ヤマハやホンダに勝てるか」と疑問に思い不安にかられていましたが、調べていくうちに、「これは業界が、ごろっと変わる可能性があるな」と感じたというのです。大企業の参入には時間がかかり、一方で自動車と比べてバイクやスクーターへの要求レベルは小さい。そのため、ベンチャー企業にも十分勝機があり、それに加えて、海外にはもっと大きな市場があると考えたからでした。

そうは言っても小さなベンチャー企業ですので、いろいろな不安要素も抱えているはずです。企業ブランド力が弱く、信用力が不足しているし、新規事業のための資金力も不足していました。人材不足による脆弱な企業体質も懸念材料で、開発技術は自社内にあり低価格が実現できるとはいえ、商品開発にも不安があります。そこで同業他社と資本提携し、人材確保(同社には大手自動車会社出身の優秀なエンジニアがいる)も考えていきました。また、中国製の部品を日本仕様にカスタマイズして現地で組立生産しているのですが、日本から品質管理のスペシャリストを派遣して指導しているのが現状でした。  脅威となる外部要因もあります。大手競合他社が電動バイクの販売価格を引き下げてくれば、ひとたまりもなく、また、法改正による電動バイクに対する販売規制の動きもあり、電動自転車の事故発生などによる消費者の購買意欲の低下も懸念材料のひとつでしょう。

 懸念されることはたくさんあっても、心配しているだけでは物事は解決されるものではありません。そこでB社の経営陣は、まずB社の直面しているビジネスのリスクを明らかにし、それらの軽減やコントロールを考えながら、経営の方向や目標を達成する取り組みをしようと思いたちました。

まず、はじめに着手したことは、ビジネスエクセレンスモデルを用いたチェックリストに照らし合わせて、自分たちの会社がどうなっているのかを把握することでした。この作業は結構手間がかかりましたが、自分たちの仕事の計画や実行に解決すべき問題や課題が多くあることが分かってきました。そして、それらの項目は分類表を用いて「戦略的なもの」はSWOT分析に、「その他のもの」は個別のリスクとして、評価表を用いて評価、対応策を明確にし、改善の実施に回されて社内で適切に処置していくことにしました。

そして、次は、いよいよ戦略的なビジネスリスクに触れていくステップです。

事業戦略的なリスクを考慮しながら、「ビジネス環境分析」を行うことにしました。ビジネス環境分析が終わったら、今度はSWOT分析で内部の強みと弱み、外部の機会と脅威を洗い出し、好ましい結果に影響を及ぼすリスク、好ましくない結果に影響を及ぼすリスクに分類することにしたのです。

さらに、戦略の方向を明確にするために、クロスSWOTに落とし込んで分析・策定を行う手順としたことは、重要なステップでした。

ところで、経営品質賞やマネジメントシステムの審査員の中にもクロスSWOTについて馴染みの薄い方々が散見されましたので、ここで、クロスSWOT分析について若干の説明をしておきます。ご存じのように、広く一般に使われているSWOT分析(以下、シンプルSWOT と呼びます)は、「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの窓で構成される現状把握のコミュニケーションツールですが、クロスSWOTでは、それらのシンプルSWOTで抽出された4つの窓を外側に転記していきます。

転記された記述、すなわち、シンプルSWOTで分析された現状の事実や想定をじっと睨みながら「強みを生かして機会を物にする」にはどうしたらよいのか、「機会に乗じて脅威を切り抜ける」手段はないのか、「機会や強みで弱みを克服しカバーする」ことはできないのか、そして、どうすれば「強みを生かして脅威を潰し最悪の状態を作らない」取り組みを行うことができるのか、といったような検討を進めていくことができます。そこで創られる4つの検討領域は内側の4つの窓に書かれ、それぞれが「積極攻勢」「競争差別化」「弱点克服」「沈黙防衛」と呼ばれている戦略の方向を示すものです。

リスクの観点からシンプルSWOTを再度見ていきますと、強み(内部)と機会(外部)が「良い結果に影響を及ぼすリスク」、弱み(内部)と脅威(外部)が「悪い結果に影響を及ぼすリスク」と考えることもできるでしょう。

クロスSWOT分析で戦略の方向を決めたらば、その戦略の方向を実現する具体的な重点目標(戦略目標)を決めていく必要があります。その作業をバランススコアカード(戦略マップとスコアカード)を用いて行っていったのです。その結果として、達成の確率の高いバランススコアカードが「目標達成への現時点のベストなシナリオ」となれば、バランススコアカードによる事業目標の策定は、ビジネスリスクを最小化する目標達成のシナリオづくりとも考えられるということになります。

リスクマネジメントは、既存のビジネスマネジメントシステムや経営管理の手法に組み入れて運用管理できる親和性が高いものであるべきで、経営の戦略目標達成への施策、たとえば中期経営計画やバランススコアカードなどでの活用は注目すべきビジネスリスクマネジメントにつながるものと言えましょう。

 

8. まとめ

リスクマネジメントというものを、リスクマネジメント規格(ISO31000)や事業継続計画(BCP)、それにクロスSWOTやバランススコアカードを用いてビジネスリスクマネジメントを織り込む一例として紹介をしてきました。

組織の中では、既にリスクマネジメントを部分的にでも実施している場合が少なくありません。それらの活動や取り組みについてISO31000の規格を参考にしながら現状を見直してみると、漏れがなく必要な要件を網羅できるリスクマネジメントにすることができると考えます。言いかえれば、ISO31000の規格をガイドにしてレビューをしてみたらどうかという提案です。

そのような意味で、リスクマネジメントの有効な運用管理をするためのPDCAの仕組み、構造、枠組み(フレームワーク)、プロセス、等を示すことは、有意義なことであり、それらを自分たちが重要と考えるリスクに使ってみることが、リスクの運用管理を具体化することになるはずです。

ISO31000では、11の原則、それを展開する5つの大まかな流れ(枠組み、フレームワーク)、そして、リスクマネジメントを実践する5つのプロセス、の関係が明らかにされています。それらの規格事項が、ビジネスのリスクマネジメントとして実行手順の助 けとなり、事業の目的や目標の達成を支援する成功事例を増やすものにしていくことが、今後の重要な課題となると考えています。

繰り返しになりますが、今回ご紹介しましたリスクマネジメント規格は、認証を目的として作成されたものではないこと、リスクマネジメントは事業計画の達成を支援する仕組みと位置付けていること、あらゆる経営活動や範囲と形態のリスクを運用管理するための原則及び指針であること、等の目的を標榜していることを冒頭に書きました。本稿が経営品質に関わる方々にとって「事業におけるリスクマネジメント」というテーマについて考える一端となれば、筆者にとって望外の喜びです。

(以上)