高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

『アサヒビール30年目の逆襲』を読んで

 アサヒビールの経営について知り始めたのは、同社が1997年度経営品質賞を受賞したときからであった。当時、スーパードライが爆発的な売れ行きで、KARAKUCHIがビール業界のキーワードになっていた頃である。その要約版報告書は、いまでもバランススコアカード(BSC)の戦略マップとスコアカードの演習ケースとして使わせていただいている。「うまさと鮮度」の品質戦略と「社会的責任」の環境戦略で、売上高営業利益率を高めていく戦略の策定と展開を目指した経営のシナリオは、筆者にとって印象的な経営モデルで、吾妻橋にある同社の戦略担当者へ取材をしに行ったものである。
 折しも筆者が勤務していたフィリップス社でもEFQM(欧州品質賞)をグローバルに展開をしていたので、日本におけるベストプラクティスとして、リコーの事例とともに社内会議で発表をしてこともあった。そのような経緯もあり、書店で同書を見つけたときには、躊躇なく購入をしてしまった。
 同書は、主にマーケティングやブランドの戦略について書かれているノンフィクションであるが、そのまとめとして、平野伸一社長へのインタビュー「ものづくりのイノベーションで世界へ」を紹介したい。平野社長は、同社が1987年発売のスーパードライを最後に目立ったヒット商品がないことに危機感を持ち、大幅な増収増益へと舵を切る必要があること、その為にはイノベーション(成長戦略)とコストリダクション(聖域なき構造改革)を経営方針とすること、などを社内で発表。販売シェアだけでなく、技術の優位性を各カテゴリーでNo.1になることで競争優位ポジショニングを確立し、それによって得た原資を次のイノベーションや商品戦略に回していく方針を打ち出した。
 イノベーションの事例としては、麦芽を増やしても糖質がゼロのまま安定する「最適点」を発見したのはイノベーションであり、その技術は糖質ゼロを維持しつつ麦の使用量を30倍に高めた「クリアアサヒ贅沢ゼロ」へと上市。
 また、コストリダクションはリストラなどのコストカットとは違い、従来は購買部門だけの取り組みだったのを、これからは商品設計からはじまり、あらゆる面において全社で取り組むことにより、大型商品が育てば、スケールメリットによる原価低減や製造・物流コストの効率化、つまり全社最適化経営につながっていく発想である。
 そして、海外ビール会社のM&Aを通じて、スーパードライやニッカウィスキーをグローバルブランドに育てる戦略も始まっているという。筆者が使わせてもらっているBSCも、そろそろ修正の必要があるようだ。

(出所:永井隆(2017)『アサヒビール30年目の逆襲』日本経済新聞出版社)