高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

因果関係と相関関係について考える

 かねてより、経営の目標や施策における因果関係というテーマに関心を持ってきた。そのはじまりは、バランススコアカード(BSC)の4つの視点(財務の視点、顧客の視点、プロセスの視点、学習と成長の視点)における相互の因果関係の重要性について着目しはじめたことから始まる。
 バランススコアカードを作る場合、5つの留意点がある。一つ目は、設定されたそれぞれの目標は、組織や部門が最終的に達成すべき目標(例えば戦略目標、中期事業計画、等)の実現につながるように策定されていることである。ふたつ目は、4つの視点の因果関係が考慮されていること。三つ目は、重要成功要因の選択基準が明確であること。四つ目は、成果指標が重要成功要因の達成状況を正しく把握できること。そして、五つ目が、計画(企画)、実行、評価、結果のバランスと評価(PDCA)を行っていることだ。この中にもあるように、4つの視点間のみならず、戦略目標や重要成功要因同士の因果関係も、バランススコアカードのキーポイントといえる。詳細については、拙書『使えるバランススコアカード』(PHPビジネス新書)をご覧いただければ幸いである。
 因果関係をテーマに取り上げた書籍のひとつに、『データ分析の力、因果関係に迫る思考法』(伊藤公一朗著、光文社新書、2017年)がある。実際に読ませていただいたところ、筆者にとっては、難しい本の1つに挙げられるのではないかと感じた。これは、まったく筆者の勉強不足に起因するものであるが、その中で興味を引かれたのが、「因果関係は相関関係とは違う」という一節であった。同書によれば、2つのデータの動きに関係性があることを、統計学では「相関関係がある」と呼ぶ、とある。そして、問題は、たとえばXとYに相関関係があることがわかっても、その結果を用いて因果関係があるとは言えないこと、なのである。そして、現場のビジネスを考えた場合、物事を決定する際に鍵となるのは、多くの場合「因果関係」であり、相関関係ではない、ということを明確に示されている。いずれにしても、筆者が標榜するビジネスの世界では、やはり因果関係というものが、経営の意志決定を支援するひとつの目のつけどころであることは、間違いないのではないだろうか。
 ところで、同書から学んだことのひとつに、「ランダム化比較試験RCT)」がある。RCTは、同書の基本的はテーマであるからして、注目するのは当然の流れではあるが、たとえば、消費者をランダムにグループ分けして、介入グループと比較グループを編成し、介入グループに電力価格の変化を与えた結果と、変化を与えない比較グループの結果とを比較して、「もしも電力価格の上昇という介入がなかった場合、2つのグループの電力消費量の平均値は等しくなる」という仮定をみたすことができるかを、分析していくものと理解した。また、医療費自己負担額の大小で変化する月年齢別の外来患者の比較データや、税込価格を表示すると税抜き価格を表示した場合に比較して平均的にどのくらい売上が変化するのか、などの事例も、興味深いものであった。
 同書の著者である伊藤氏が、あとがきに『環境経済学への招待』(植田和弘著、丸善ライブラリー)という新書に感銘を受けたと書いている。筆者も、ぜひ読んでみたい。

(以上)