高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

『国際標準の考え方:グローバル時代への新しい指針』を読んで

 2013年4月から特任教授として、2017年4月からは専任教授として、桜美林大学大学院経営学研究科の国際標準に関わる研究領域で教鞭をとっている。主たる業務部署は大学院だが、ビジネスマネジメント学群の授業も担当したり、院生の論文指導も、重要な受け持ち領域である。
 いずれにしても、国際標準化という看板を背負っている現在、ISOマネジメントシステムだけでは賄いきれるわけもなく、同研究領域の他の先生方の専門分野についても、勉強を重ねている。同書は、その学習の一環として読ませていただいた。
 まず、標準の定義であるが、標準の範囲を広く取り、「同じ結果や成果が期待できるように、技術や内容を文書化して、文書の内容どおり実施(モノをつくったり、操作したりする)すれば、誰が行っても同じ結果が得られる「文書で書かれたもの」と同書では定義している。
 また、1999年9月に、米国大使館が、突然、実用に踏み切ろうとするJR東日本のICカードのSuicaにクレームを付けてきたエピソードが書かれている。WTOの政府調達の取り決めに違反しているという。政府関係機関が、ソフトや物品を購入するときは、国際標準に基づかなくてはいけないことが取り決めで取り決められており、日本はこれを守っていないというのである。米国のWTOへの提訴の後、協議に及んだが、しかるべきICカードの国際的な標準が未整備であるとわかり、1年後の10月に米国は提訴を取り下げたという話だ。
 この例だけではなく、通常の取引においても、標準が国際的な標準と異なることにより、このような問題が生じることがあると、著者の田中氏は述べている。ことほどさように、国際標準というのは、なかなか単純な話ではないようだ。
 仕様標準と性能標準のくだりも、興味を持って読んだ。なぜならば、水ビジネスにおける用語として、仕様発注と性能発注という受注形態がよく出て来たためで、なるほど、標準の考え方においても、受注の形態においても、同様の意味があったのかと再学習した想いがした。 
 私たちの生活では、国際標準の恩恵を多分に享受している。そのわりには、一般にはあまり馴染みのない領域であることを、反省を込めて痛感した書籍であった。

(参考:田中正躬(2017)『国際標準の考え方:グローバル時代への新しい指針』東京大学出版会)

以上