高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

日経文庫『全社戦略がわかる』を読んで

 グルーバルカンパニーに数十年勤務した筆者には、全社のコーポレート戦略と事業部門の個別戦略の違いを理解しているつもりであったが、同書を読むに及んで、全社戦略の重要性と特質を再認識することができた。それは、全体最適化経営と個別最適化経営との対比という同書の構成からも、伺い知れる。複数の事業を持つ企業において、経営者あるいは本社は全社的視点で経営を考えることが必要であり、単一事業の戦略である個別事業戦略と分けて位置づけられている。したがって、長い間、事業部門のエースだった人材が、全社戦略を理解し実践するには、それ相応の特別な教育と学習が必要になることでもある。個別事業戦略では、顧客は誰か、提供価値は何か、競合は誰か、などが基本的な重点課題になるが、また、経理や財務などのように一つの狭い視点だけから全社を見ても、経営は経理や財務だけでなく、戦略、マーケティング、組織、オペレーションなどの要素を総合的に俯瞰しながら経営の結果を出し、目的・目標を達成するアートの側面があり、全社戦略では、個別事業戦略と比べて、考えなくてはならない内容は大きく異なると、同書の著者は言う。

 同書の話題は、事業ポートフォリオ・マネジメント、事業間の資源再配分やシナジー・マネジメント、全社ビジョンの作成と徹底、全社組織の設計などに及ぶ。とくに事業ポートフォリオでは、中止、統合、分割、開始、の4つが具体的な取り組みで、各事業に与えられた資源の中で、挑戦的な投資をして新規事業に乗り出すかどうかの経営判断は、やはり全体最適化経営を標榜できる本社が行うべき経営の意思決定としている。また、事業間のシナジー効果(相乗効果)、企業理念・全社ビジョンの策定、全社組織の設計と運営、などの全体最適化経営を目指す手法にも触れているが、それぞれの事業部門が自部門の優先論理で一生懸命に努力して個別最適を実現しても、単純にそれらの個別最適な事業部門を合計しても、全体最適になるわけではなく、コーポレート(本社)による全体最適化経営が必要になる理由は、そこにあるという記述は印象に残る。

 経営理念や全社ビジョンも、全体最適化経営の重要成功要因として注目すべきもので、むしろ、全体最適化経営のスターティングポイントと言っても良い。これまでの企業事例の中では、企業の経営ビジョンというものが、トップから現場の従業員に至るまで、日常業務との直結がビジョンを実行し徹底させるうえで、いかにパワフルかを示している。全社ビジョンの場合、異なる事業を営んでいる我々が、なぜ一つの傘の下にいるのか、そして、何をやらないのか、を明確にステークホルダーに伝える要素が含まれることが必要となる。ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド(我が信条)がタイレノール事件を乗り越えるビジョンとなりえたこと、窮地に追い込まれたスターバックスがビジョンに合う取り組みを新たに始めたことによる業績回復の再生劇を演じられたこと、オムロンの事業の歴史にみるソーシャルニーズ創造というビジョンに沿った行動の数々など、ビジョンが生み出す全体最適化経営の事例には、枚挙のいとまがない。

 ビジョンと関連して言及したいことに、全社事業ドメインがある。ひとつの企業が個々の異なる事業部門で構成されていても、ひとつの企業として、どの事業部門も、ある一定の事業ドメイン(事業領域)の範囲内で全体最適化経営を行うべきとすると、事業ドメインを設定し、個々の事業部門が、その事業ドメインから逸脱しないように全体最適化経営を進めていくことも、経営者や本社の重要な役割となる。全社事業ドメインを決める場合、ビジョンに適合する事業のみをやるべきという前提に立てば、ビジョンが事業ドメインを規定することになる。そのような意味で、全社ビジョンと全社ドメインの両者は、切っても切れない関係にある。ビジョンは、どこに行くのか、どうやって各事業部門を同じ方向に向かせるのか、そしてドメインは、自社の立ち位置をどこに定めるのか、などに焦点を当てた全体最適化経営を進めていくフレームワークだ。

(参考:菅野寛(2019)『全社戦略がわかる』日本経済新聞出版社)

 

講演・研修のご依頼(連絡先と主な実績更新)

◆講演及び研修講師のご依頼は、下記連絡先までお願い致します。
✉ ytakaha@obirin.ac.jp
☎ 090-3964-7431

◆主な領域
バランススコアカード、リスクマネジメント、経営品質、ISOマネジメント、
経営企画、経営管理、中期経営計画、経営戦略、品質・環境マネジメントシステム、業務改善、生産管理、CS・ES(顧客・社員満足)、CSR(社会的責任)、役員・管理職研修をはじめ、上記分野の研修講師・企画立案・コンサルテーション・ファシリテーション。

◆主な実績 

【講演・研修・セミナー】
・「イノベーションのマネジメントシステムの動向」(桜美林大学、2020年)
・「 リスクマネジメント指針の最新動向」(桜美林大学、2019年)
・「技術開発プロジェクト業務改善支援研修」(医療機器開発製造企業、2019年)
・「マネジメント業務改善支援研修」(設備装置設計製造企業、2019年)
・「 事例に学ぶ目標管理と経営戦略」(企業研究会戦略幹部交流会議、2019年)
・「業務の標準化とマネジメントエクセレンシー」(OATUG JAPAN、2019年)
・「ISOマネジメントシステムの全体最適化経営分析」(桜美林大学、2019年)
・「マネジメントシステムコーディネーター養成の意義」(桜美林大学、2018年)
・「経営に資するマネジメントシステム」(桜美林大学、2018年)
・「全体最適化経営におけるマネジメントと人材育成」(桜美林大学、2017年)
・「ISOとBSCを活用した全体最適経営」(桜美林大学、2017年)
<2016年>
・「バランススコアカード(BSC)を用いた事業計画作成研修」
 (某大手電機グループ会社管理職研修、同社にて、連続開催)
・「中小企業の良いマネジメントシステム、残念なマネジメントシステム」
 (日本中小企業ベンチャービジネスコンソーシアム講演、明治大学にて)
・「経営戦略担当幹部交流会議・研究協力委員」
 (一般社団法人企業研究会にて)
・「生産管理研修」
 (某米菓製造販売老舗会社管理職研修、同社にて、連続開催)
・「ISOマネジメントシステム・コーディネーターによる経営革新」
 (桜美林大学大学院経営学研究科主催ビジネス戦略講座講演、同大学にて)
・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (グローバルテクノ公開セミナー、同社にて、連続開催)、他
<2015年>
・「生産管理研修」
 (某米菓製造販売老舗会社管理職研修、同社にて、連続開催)
・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (グローバルテクノ公開セミナー、同社にて、連続開催)
・「バランススコアカード(BSC)を用いた事業計画作成研修」
 (某大手電機グループ会社管理職研修、同社にて、連続開催)
・「エンターテインメント業界におけるリスクマネジメント」
 (某大手音楽会社役員管理職向け講演、同社にて)
・「クレジット業界におけるリスクマネジメント」
 (某大手クレジット会社リスクマネジメント担当者向け研修、同社にて)
・「バランススコアカードによる事業計画立案研修」
 (某大手重工業会社新任役員研修、同社にて、毎年開催)
・「TML5周年感謝セミナー」
 (グローバルテクノ社にて)
・「生産管理上級コース研修」
 (某非常食製造販売会社管理職研修、同社にて、連続開催)
・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (某原子力関連財団法人管理職研修、同財団にて)
<2014年以前>
・「バランススコアカードによる事業計画作成研修」
 (韓国系某電子会社日本法人役員研修、同社にて)
・「リスクマネジメントセミナー:ISO31000を現場の言葉で読み解く」
 (某医療関連会社管理職研修、同社にて)
・「バランススコアカードによる事業計画立案研修」
 (某大手ゴム加工製品製造販売会社管理職研修、同社にて)

【執筆:主な近著】
・「イノベーションマネジメント国際標準化動向」(桜美林ビジネス科学、2020年)
・「リスクマネジメント指針の国際標準の一考察」(桜美林経営研究、2020年)
・「経営に資するISOマネジメントシステム」(アイソス、2020年2月号・3月号)
・「マネジメントシステムによる全体最適化経営分析の一考察
 (とよす株式会社の事例研究を中心に)」桜美林経営研究、第9号、2019年3月)
・「経営に資するマネジメント2社事例」(桜美林大学ビジネス科学、2019年)
・「国際標準化人材育成・桜美林大学の取り組み」(アイソス、2019年2月号)
・「事例で見る中小企業の成長戦略)」(同文館出版、共著、2017年)
・「マネジメントシステムのKPI策定におけるバランススコアカード活用の一考察
 (堀場製作所の事例研究を中心に)」(桜美林経営研究、第7号、2017年3月)
・「革新的中小企業のグローバル経営」(同文館出版刊、2015年1月、共著)
・「経営品質を高める仕組みや活動に学ぶISOの役割と活用事例」
 (アイソス、2012年10月~2013年3月)
・「組織としてのリスクマネジメント:ISO31000を紐解く」
 (経営品質アセッサージャーナル、2011年12月)
・「戦略の空文化を防ぐ非財務指標の選び方」
 (日経ビジネスマネジメント、2009年5巻、日経BP刊)
・「使えるバランススコアカード」(PHPビジネス新書、PHP出版刊、2007年)
・その他、多数

【所属学会、等】
・桜美林大学総合研究機構国際標準化研究センター センター長
・社団法人企業研究会「戦略担当者交流会議」 コーディネーター
・経営品質学会 理事
・経営行動研究学会、経営情報学会、品質管理学会、組織学会、等の会員

◆主な職歴

1973年 理研ピストンリング株式会社(現・株式会社リケン)入社、技術開発センター、製品開発室、貿易部に所属
1983年 日本フィリップス株式会社(現・フィリップスエレクトロニクスジャ
パン)入社、国際調達部門部長職、経営品質部部長を歴任
2008年 ヴェオリアウォーター ジャパン株式会社入社、経営戦略室長
2011年 高橋マネジメント研究所設立、代表
2013年 桜美林大学大学院経営学研究科、特任教授
2017年 桜美林大学大学院経営学研究科、教授

(2020年4月27日更新)

 

 

司馬遼太郎『峠(上・中)』を再読して

 『峠』を読んだのは、20歳代中ごろのことである。勤務先の社内研修を主宰していた営業部次長が冒頭に「知識という石を、心の炎で熔かせ」と黒板に書き、越後長岡藩の河井継之助のことばであることを紹介した。研修に臨む社員への心構えとして、引用したのだろう。その話が、同書を読むきっかけとなった。ついでながら、引用された原文は「おれは、知識という石ころを、心中の炎でもって熔かしているのだ」と鈴木佐吉(後の刈谷無隠)に話す場面である。

 その引用箇所の前には、「河井のは文字をかくのではなく、文字を彫るのだ」と、古賀塾の事情に詳しい先輩が佐吉に言うくだりがある。この事情通のはなしでは、河井は訓詁(くんこ)つまり字句の意味のせんさくなどをばかにし、そのような授業が始まると他のことをするという。かれは学者というより行動家を志し、行動の原理を探っているらしい。世の中に、知識、見識、胆識という言葉があるが、継之助の真意は、知識は百科事典であり、見識は評論家に留まるが、胆識こそが目指す真の学問の姿と考えていたのであろう。

 ちなみに、経営品質(ビジネスエクセレンスモデル)やISOマネジメントシステムでも、やたらに規格の解釈を得意げに話す輩がいるが、それは知識や見識の範疇であり、真のISO経営実践などという胆識という意味では、どれほどのことかと思うことが多々あるのは、筆者だけであろうか。

 もうひとつ、徳川慶喜の大政奉還後に、会津藩の秋月悌二郎と継之助が話をする場面がある。そこで継之助は「覚悟」について触れている。覚悟というのもは常に孤り(ひとり)ぼっちなもので、本来、他の人間に強制できないものだ。覚悟が決まってから政略、戦略が出てくる。政略や戦略は枝葉のことで、まずは覚悟が問題だ、と話す。

 現在の経営に置き換えて言うならば、覚悟は、理念、創業の精神、ビジョン、あるいは信条と言い換えても良いかもしれない。ビジネスエクセレントモデルやISOマネジメントシステムのフレームワークでいうところの、リーダーシップ発揮→方針・戦略策定への流れに該当する考え方と思える。ジョンソン&ジョンソンの「我が信条」や、ソニー創業者の井深大の「創業の精神」と合致する「覚悟」と考えると、司馬遼太郎の筆による継之助の思考は、現在の経営にも参考になるのではないか。

 というようなことで、今回の再読は、これから80歳までの10年間のキャリアプランを考える「覚悟」を再考する意味で、有意義な再読となった。

 (参考:司馬遼太郎『峠(上・中)』新潮文庫、新潮社)

 

 

ISO審査員にお薦め『町工場の経営支援』を読んで

この本は、地方銀行、信用金庫、信用組合等の地域金融機関の法人担当者等で町工場などの製造業の経営支援に携わっている人々に向けて、支援の進め方やポイント、事例を紹介する目的で著されたものである。製造業・ベンチャーの経営支援などの会社を経営する著者、宇崎勝さんは、これまでに金融機関と連携して支援した案件も多い。文中には、ISOマネジメントシステム認証対応状況の確認についての記述もある。

本のタイトルにもあるように、製造業を中心に書かれたもので、ISO審査プロセスとの類似点も多いが、やはり財務状況や事業評価を目指しているところが、ISO審査員にとって新鮮であり、意義のあるところだ。本業支援の心構え、事業性評価のポイントと重要項目、経営者へのインタビュー実践方法、本業支援の方向性も見立て・手段・マッチングなどの目次項目にもあるように、「経営者へのインタビューシート」の例まで紹介されている。

他にも、「事業性評価シート」や「フレームワークの例と活用目的」などもあり、「事業性評価シート」にはSWOT分析、「フレームワークの例と活用目的」にはBSC(バランススコアカード)も掲載されている。製造工場のマネジメントのみならず、実践的な生産技術知識にも言及しており、ISO9001の審査員には、審査の勘所やブラシュアップに一読をお勧めしたい。

(書籍名:宇崎勝(2019)『町工場の経営支援』一般社団法人金融財政事情研究会)

桜美林大学大学院第15回ビジネス戦略セミナー開催のご案内(無料)

本セミナーは、経営学研究科並びに国際標準化研究センターの活動と国際標準化の重要性を企業関係者および地域社会に広くアピールする目的で定期的に開催しています。このたびは第15回目を迎え、メインテーマとして「(仮)イノベーションと標準化」を取り上げ、それぞれの発表者から最近の話題提供をさせていただくことになりました。新宿キャンパスにて半日のビジネス戦略セミナー(参加費無料)です。どうぞお気軽にご参加ください。

●会場及び開催日時
 ・日時 2020年2月12日(水)13:00~17:00(受付開始12:30)
 ・会場 桜美林大学新宿キャンパス3階J301教室(JR大久保駅・新大久保駅下車)
 ・参加費   無料
 ・お申込み 桜美林大学大学院経営学研究科(高橋)まで ytakaha@obirin.ac.jp

●プログラム
 13:00 開会
・司会とコメンテーター:原田節雄(桜美林大学大学院客員教授)
 13:05 演題①「(仮題)国際標準化とイノベーション」
・講師:谷口翔太様(経済産業省産業技術環境局基準認証政策課)
 14:00 演題②「イノベーションのISOマネジメントシステムの動向」
・講師:高橋義郎(桜美林大学大学院教授)
 14:55 休憩
 15:05 演題③「新興国における製品イノベーションの成功要因」
・講師:井上隆一郎(桜美林大学大学院経営学研究科教授)
 16:00 演題④「サービスイノベーションと標準化についての一考察」
・講師:杉山大輔(桜美林大学大学院経営学研究科客員教授)
 16:55 総括
・原田節雄(桜美林大学大学院客員教授)
 17:00 閉会

皆様のお越しを、教職員一同、こころより待ちしております。

 

桜美林大学大学院経営学研究科 第3回マネジメントシステム・コーディネーター養成講座

経営に資するマネジメントシステムを企画・構築・運用できる人財の養成を目指して、標記研修を開講します。

◆講座の概要
2020年2月15日(土)から3月21日(土)までの毎土曜日(合計6日間)
国際標準、ISOマネジメントシステム、経営品質、バランススコアカードなどのマネジメントシステムを利活用し、経営者の立場に立ち経営の視点を持ってマネジメントシステムの企画・構築・運用・改善ができる人財の育成や、中小企業の次世代事業継承者の能力やスキルを向上させるプログラムを、3つのステップで提供。
・ステップ①   マネジメントシステムのグローバルな新潮流を理解する
・ステップ②   マネジメントシステムで非財務成果と財務成果を結びつける
・ステップ③   マネジメントシステムを経営戦略と顧客価値創造に結びつける
大学院経営学研究科とエクステンションセンターが企画・運営し、修了者には、桜美林大学長が修了証を交付し、本学認定資格「マネジメントシステム・コーディネーター」が取得できます。
経営やマネジメントシステムに携わる皆様のキャリアアップ、事業継承者育成、リカレント教育、社内研修の一環として、ぜひとも受講をお薦めします。
皆様のお申込みを、弊学教職員一同、こころよりお待ちしています。

◆開催要領
・定員 10名(最少開講人数5名)
・受講料 150,000円(消費税込み、講座開催中の昼食付)
・日程 2020年2月15日(土)・22日(土)・29日(土)、3月7日(土)・14日(土)・21日(土)
・会場 桜美林大学千駄ヶ谷校舎(千駄ヶ谷駅・北参道駅下車)

◆募集要領
・応募資格 年齢、学歴は問いませんが、ある程度の企業勤務経験や経営知識を有すること。
・申込締切 2020年1月31日

◆受講申し込み方法 本ホームページよりお申込み下さい。
https://www.obirin.ac.jp/extension/school/yotsuya/course/biz/Y19950.html

◆主な講座内容
・講義プログラムや講師、諸事情により一部変更されることがあります。
・括弧内は予定担当講師の皆様です。
・時間割:①9:00-10:30, ②10:40-12:10, ③13:00-14:30, ④14:40-16:10, ⑤16:20-17:50

Ⅰ.1日目 『マネジメントシステムの新潮流を理解する』
① 開講、オリエンテーション、MSコーディネーターと全体最適化経営論 
② グローバルな視点から見る国際標準化とマネジメントシステムの新潮流
③ 国際標準化戦略の新潮流と対応する人財育成 
④ ISOマネジメントシステムの新潮流
⓹ 経営品質向上マネジメントシステムの新潮流

Ⅱ.2日目 『財務目標を達成する非財務成果実現のマネジメントシステム設計論を理解する』
① 経営及び財務分析とマネジメントシステム論
② バランススコアカードの利活用によるマネジメントシステム強化論
③ 財務目標を達成する非財務目標及び成果を実現するマネジメントシステム設計論
④ 同上:主要な理論と手法の理解
⓹ 同上:理論と手法を用いた演習と成果共有と解説

Ⅲ.3日目 『マネジメントシステムを経営戦略に結びつける』
① ビジョナリー経営と戦略マネジメント関係論
② 経営戦略策定とマネジメントシステム
③ 同上:主要な理論と手法の理解
④ 同上:理論と手法を用いた演習
⑤ 同上:演習成果の共有、解説、総括

Ⅳ.4日目 『マーケティングとリスクのマネジメントの仕組みと活動を経営成果に結びつける』
① マーケティング戦略とマネジメントシステム
② 同上
③ リスクマネジメントを経営の成果に結びつける
④ 同上
⑤ 同上

Ⅴ.5日目 『ケーススタディによる演習「マネジメントシステムによる経営課題解決の提案書を作成する」
① 経営課題解決提案書作成とコーチング
② 同上
③ 発表:経営課題解決提案書の発表と講評(同上)
④ 同上
⑤ 最終課題説明、事例解説、課題取り組み開始(同上)

Ⅵ.6日目 『最終課題:マネジメントシステムによる経営課題解決の提案書を作成する』
① 5日間の講座の振り返り
② 経営課題解決提案書作成とコーチング
③ 発表:経営課題解決提案書の発表と講評
④ 同上
⓹ 総括「振り返り、総評、修了書授与、閉講(同上)


(以上)

『国際標準の考え方:グローバル時代への新しい指針』を読んで

 2013年4月から特任教授として、2017年4月からは専任教授として、桜美林大学大学院経営学研究科の国際標準に関わる研究領域で教鞭をとっている。主たる業務部署は大学院だが、ビジネスマネジメント学群の授業も担当したり、院生の論文指導も、重要な受け持ち領域である。
 いずれにしても、国際標準化という看板を背負っている現在、ISOマネジメントシステムだけでは賄いきれるわけもなく、同研究領域の他の先生方の専門分野についても、勉強を重ねている。同書は、その学習の一環として読ませていただいた。
 まず、標準の定義であるが、標準の範囲を広く取り、「同じ結果や成果が期待できるように、技術や内容を文書化して、文書の内容どおり実施(モノをつくったり、操作したりする)すれば、誰が行っても同じ結果が得られる「文書で書かれたもの」と同書では定義している。
 また、1999年9月に、米国大使館が、突然、実用に踏み切ろうとするJR東日本のICカードのSuicaにクレームを付けてきたエピソードが書かれている。WTOの政府調達の取り決めに違反しているという。政府関係機関が、ソフトや物品を購入するときは、国際標準に基づかなくてはいけないことが取り決めで取り決められており、日本はこれを守っていないというのである。米国のWTOへの提訴の後、協議に及んだが、しかるべきICカードの国際的な標準が未整備であるとわかり、1年後の10月に米国は提訴を取り下げたという話だ。
 この例だけではなく、通常の取引においても、標準が国際的な標準と異なることにより、このような問題が生じることがあると、著者の田中氏は述べている。ことほどさように、国際標準というのは、なかなか単純な話ではないようだ。
 仕様標準と性能標準のくだりも、興味を持って読んだ。なぜならば、水ビジネスにおける用語として、仕様発注と性能発注という受注形態がよく出て来たためで、なるほど、標準の考え方においても、受注の形態においても、同様の意味があったのかと再学習した想いがした。 
 私たちの生活では、国際標準の恩恵を多分に享受している。そのわりには、一般にはあまり馴染みのない領域であることを、反省を込めて痛感した書籍であった。

(参考:田中正躬(2017)『国際標準の考え方:グローバル時代への新しい指針』東京大学出版会)

以上

岩槻の料亭「ほてい家」に見る江戸の粋:會田優子さんの和紙人形展

 夕方から埼玉スタジアム2002で浦和レッズ戦があるので、その前に岩槻市内で昼食をと思い、料亭「ほてい家」に立ち寄った。
 折しも、會田優子さんの製作した和紙人形展が開催されていて、その作品の素晴らしさに心を奪われてしまった。
 顔から着ている和服、それに髪の毛や調度類も全て和紙で作られているのである。人形が着ている和服は、まさに絹地ではないかと見間違えるほどの品質である。
 それらの和紙人形が、料亭「ほてい家」の持つ古風で雅な風情と溶け込んでいて、企画をした「ほてい家」さんの大女将や若女将の説明にも、どことなく興奮めいた熱気がこもっていた。
 和紙の絵柄や質感が本当に素晴らしい和紙人形の製作者の會田優子さんご本人からもお話を聞くことができ、誠に至福のひとときを、美味しい料理とともに味わうことができた。
 あまりの感動のため、食事を終えたあとも皆で作品を眺め直し、あやうく食事代を支払うことも忘れるところであったが、妻にたしなめられて無事に会計を済ませた。
 ちなみに、この展示会の模様が公開されていたので以下に紹介するが、いずれにしても、とにもかくにも、まずは実物を「ほてい家」さんでご覧いただきたいと、切にお薦めしたい。 
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191004-00010003-teletamav-l11

(以上)

 

 

 

桜美林大学第14回ビジネス戦略セミナー(最終案内)

本セミナーは、経営学研究科並びにビジネス科学研究所の活動と国際標準化の重要性を企業関係者および地域社会に広くアピールする目的で定期的に開催しています。このたびは第14回目を迎え、メインテーマとして「リスクと標準化」を取り上げ、それぞれの発表者から最近の話題提供をさせていただくことになりました。新宿キャンパスにて半日のビジネス戦略セミナー(参加費無料)です。どうぞお気軽にご参加ください。

●会場及び開催日時
 ・日時:2019年9月5日(木)13:00~18:00(受付開始12:30)
 ・会場:桜美林大学新宿キャンパス「J301」教室(大久保駅・新大久保駅下車)
 ・参加費:無料
 ・申込み:桜美林大学経営学研究科(高橋)まで ytakaha@obirin.ac.jp

●プログラム
 ・13:00 開会及びご挨拶
 ・13:05 演題①「国際標準化におけるリスクに関する最新動向」
     講師:谷口翔太氏(経済産業省産業技術環境局基準認証政策課)
 ・13:55 演題②「標準化と知財戦略のリスクにおける最新動向」
                 講師:原田節雄(桜美林大学大学院経営学研究科客員教授)
 ・14:45 休憩
 ・15:00 演題③「コンプライアンスの実情:弁護士としての経験から」
     講師:馬橋隆紀氏(桜美林大学大学院経営学研究科特別招聘教授)
 ・15:50 演題④「観光リスクの最新動向」
     講師:杉山大輔(桜美林大学大学院経営学研究科客員教授)
 ・16:40 演題⑤「ISO31000:リスクマネジメント指針の最新動向」
     講師:高橋義郎(桜美林大学大学院経営学研究科教授)
 ・17:30 閉会
 ・18:00 懇親会(大学近隣でご希望者のみ、実費ご負担)
     ・懇親会に参加ご希望の方は、高橋へメールでお知らせ下さい。

皆様のお越しを、教職員一同、こころより待ちしております。

2019年9月吉日

桜美林大学大学院経営学研究科 / ビジネス科学研究所
高橋 義郎

ワークマンのSCMに見る全体最適化経営

 サプライチェーン(SCM)全体で無駄を省き、調達量の適正化を図るために、店頭在庫や倉庫の空き具合のデータを取引先メーカーに開示する。その取り組みで味方を増やす経営が、ワークマンで行われている。その成果として、作業服の需要予測が高度化し欠品率7%が4%になり、既存店売上高の前期比伸び率は14%、株式価値総額は2年前と比較して約3倍になった。
 その原動力に昔ながらの「エクセル」を駆使した全社員がデータを基に議論する仕組みづくりがある。約100坪(約330平方メートル)の売り場に常時1700品目の商品を陳列する。以前は発注だけで毎日2時間かかっていた業務が10秒で完了。空いた時間は接客や営業などに使えるため、顧客満足も高まる。その成功要因は、全社で進めたデジタル化。入社2年目から研修を徹底し、エクセルの「関数」は必須スキルに。営業担当はタブレットを片手に、独自の分析ソフトを駆使し、地域ごとの売れ筋商品や販売ピーク月などをデータベースから導き出す。
 結果として、需要予測の高度化という成果が顕著に表れた。高度な人工知能(AI)ではなく、身近なエクセルを使っているので、因果関係を理解できるシステムの方が社員全員が使いこなせる。アパレルチェーンでは、一般的に何が売れるかを予測し、適正量を仕入れて売り切ることが収益を左右する。見込みを外すと過剰在庫を抱えて苦しむ。
 ワークマンは、この予測作業を大幅にシステムに任せようとしている。店長がレジ端末の「一括発注」ボタンを押すだけで納品される仕組みを導入したのだ。作業服は一般的なアパレル商品とは異なり、少なくとも10年程度は売り続ける。ワークマンは品揃えの97%を全国で統一し、店舗レイアウトも標準化している。そのため、どの商品を店舗のどこに置けば、いつ売れるかというデータが膨大に蓄積されている。このデータや直近の売り行きを基に、発注すべき商品の種類と量を算出。個別店舗の発注作業を自動化し、適正な在庫を保てるようになった。
 この自社カスタマイズシステムにより、FC方式で展開する店舗で経験の少ない店長でも、発注作業で戸惑わずにすむ。それに、過剰在庫を気にするあまり機会損失発生の問題解決にもなる。データ分析力も部長昇進ねお条件としており、経営の方向は明確だ。「ワークマンプラス」が低価格でデザイン性の高いアウトドア衣料も立ち上げて顧客層も広がる中で、エクセルを軸にしたSCMの全体最適化経営は、より重要な経営ツールになっていくのではないだろうか。これからの進化が楽しみだ。

(出所:日本経済新聞、2019年7月9日、15面)

 

オープンイノベーションの3つのタイプを考える

 日経ビジネスの特集号に、3つのタイプのオープンイノベーションが紹介されている。1つは「インバウンド型」。サッポロビールでは、外部のアイデアや技術を取り込み、マーケティング開発部ビジネス創出グループが取り組み始めた事例が記載されている。理由は、ビール会社の社員だけでできる創造には限界があるからで、最終的な判断を下すのは、発案者である消費者だという。消費者ならではの創造性に触れるオープンイノベーションが社内のビール開発に新たな風を取り入れる効果も、サッポロビールは期待をしているのだ。
 2つ目は「アウトバウンド型」。内部の技術やノウハウをさらけ出すことで、外部との連携を促す試みで、実践事例として富士フィルムが挙げられている。本社の一角にある「オープンイノベーションハブ」で虎の子の技術を外部の企業に紹介し、そこでの議論を基にオープンイノベーションの目標を具体化していく。相手企業は、どの技術に興味を持ちそうか、富士フィルムとしては、どの技術で相乗効果が生まれそうだと期待しているかなど、様々な角度から相手が関心を持ちそうなテーマを検討し、あらかじめ10テーマ未満に絞って技術を紹介する。花王がヘアサロン専用ブランド「ゴールドウェル」で発売した、鮮やかな発色を特徴とするヘアカラーリング製品は、その成果だという。
 そして、3つ目が、「連携型」と呼ばれるタイプである。より広く連携先を募り、新たな事業アイデアを発掘し、新しいビジネスモデルの確立を目指す動きを指す。短期集中型でアイデアの検討・検証をする「アイデアソン」や、大企業がスタートアップに投資する「CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル」といった取り組みが代表例。スタートアップとの関係を早くから構築する狙いや、日立製作所と博報堂DYホールディングスがCVCを創設して有望なスタートアップと接点を持っておきたいという企業の姿勢が垣間見える。
 一方、過去に流行したマネジメント手法と同じように、オープンイノベーションという手段が目的になってしまっているケースも散見されるようだ。ブームに乗り遅れないように、とにかく何かやらなければというような焦りが、カタチだけのオープンイノベーションになってしまうのだろう。この傾向は、今に始まったことではなく、日本の企業社会における負の活動側面といえるかもしれない。難しいところである。

(出所:「もう失敗させないオープンイノベーション」『日経ビジネス』2019年7月15日号)

 

『濃尾参州記』を読んで

 ちょっと気分を変えたいときに本棚から引っ張り出す本の1つに、司馬遼太郎の『街道をゆく』シリーズがある。「濃尾参州記」は、その執筆中に司馬遼太郎が亡くなった未完の書である。巻末の週刊朝日編集部村井重俊氏の追悼余話にある「もし司馬さんがお元気だったら、きっと笑って言われるに違いない。名古屋ってほんとにツイてない所だね」という一文が印象に残る。未完のために文章量が少ないせいか、巻末には前述の村井氏や安野光雅画伯の余話や、安野画伯のスケッチ画と司馬さんの取材中の写真が載せられているこの文庫本は、パラパラとめくり直すたびに、妙に懐かしい想いがするのが不思議だ。
 濃尾参州となれば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が登場する。その中で、信長の戦略について触れたい。信長の一代のなかでも、若いころの桶狭間への急襲についてである。彼は尾張衆をひきい、いまの名古屋市域を走った。勝ちがたい敵とされた今川義元の軍に挑み、ひたすら主将義元の首を一つをとることに目的を絞り、みごとに達した。それは、戦略の選択と集中とか、全体最適化戦略とも言えるかもしれない。
 今川方は、長蛇の列をなして行軍している。信長にすれば、不意に出てその中軍を衝き、義元一人の首をあげることのみを考えていた。あげぞこねれば、信長方が全滅する。この作戦において信長がやろうとしていたのは、近代戦術でいえば騎兵の集団運用による奇襲であった。雨中、彼は部下たちに最後の命令をあたえた。突き捨て、切り捨てにせよ、ひとすじに駿府どのの御首級をあげることに目標を集中させたのである。
 やがて、義元は織田軍によって首を搔き取られた。このとき、信長は義元の死を知ると、全軍に引き上げを命じ、風のように戦場を去り、熱田を経由して清洲城にもどった。事前に立案した方針と戦略に従えば、当然の処置であったろう。
 村井氏の余話に戻るが、「信長の偉い所は、桶狭間の成功におぼれなかったところだね。人間はいちど成功すると、同じことを繰り返して失敗します。信長は二度と少人数での奇襲をしなかったからなあ」と、司馬さんは村井氏に話していたと書いている。司馬さんの「街道をゆく」シリーズは、近江から始まっている。「近江というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、私には詩がはじまっているほど、この国が好きである」というくだりは、筆者も諳んじることができるくらいに印象に残っている文章表現である。シリーズの最初と最後の稿を読み直す毎に、街道記の心地よいかほりが漂ってくるのは、筆者だけであろうか。

(出所:司馬遼太郎『街道をゆく43濃尾参州記』朝日新聞出版、2009年5月)

 

ブックオフを潤す「デジタル疲れ」

 最近の新聞で「デジタル疲れ」と「オワコン」という言葉を目にした。オワコンとは「終わったコンテンツ」の略語で、業績が低迷してきた「ブックオフ」がそのネット用語で語られた。そして、デジタルサービスが広がる中、他者とのコミュニケーションを敬遠する「デジタル疲れ」という用語も出始めている。
 デジタル疲れがオワコンの「ブックオフ」の業績を復調させている(2019年4月~6月期前年同期と比べて売上高は6%増、純利益は2.9倍)というのが、その記事の内容であった。ブックオフの宿敵であるフリーマーケットアプリ大手のメリカリからの思わぬ恩恵で、商品発送など個人間取引の手間を嫌ってリアル店舗に回帰する消費者が増えているという。いわゆる「メルカリ疲れ」からの動きである。
 フリマアプリを通じた中古品売買は、スマートフォンで済む手軽さがあり、しかも買い取り価格はメルカリが優位だ。ある中古商品では、ブックオフが5千円とすると、メルカリは7千円などのような差があるという。だが、フリマアプリを使うと個人間で価格交渉をしたり、配送や梱包をするなど、手続きが面倒と考える消費者が実店舗に戻り始めた。
 そこで、ブックオフは、都心部を中心に書籍やブランド品などの買い取りを担う小型店「総合買取窓口」を広げ、所得水準の高い都市部での買取力を高め、大型店の品揃えを充実させるなどの新たな戦略を取り始めた。復調が一過性に終わるリスクもあり、ブックオフの経営におけるリスクマネジメントが試されている。ネットサービスが普及する中でも、リアルの強みをアピールし、デジタル疲れの消費者の潜在需要を取り込むことができるかが、店舗の生き残りを左右することになるだろう。
 本稿の最後に、中古品買い取りのリアルとネットの違いをまとめてみた。ちなみに、筆者はリアル店舗主義である。

◆リアル店舗(ブックオフなど)
・メリット:多数の本や雑貨をまとめて買い取る、買取価格は一律で交渉はない
・デメリット:買取価格が安い、ネットより商品を探しづらい
◆フリマアプリ(メルカリなど)
・メリット:スマートフォンで出品、買取価格はリアル店舗より高い
・デメリット:個人間で価格交渉する場合も、出品者が配送や梱包する

(出所:日本経済新聞、2019年8月16日、12面)

 

『アサヒビール30年目の逆襲』を読んで

 アサヒビールの経営について知り始めたのは、同社が1997年度経営品質賞を受賞したときからであった。当時、スーパードライが爆発的な売れ行きで、KARAKUCHIがビール業界のキーワードになっていた頃である。その要約版報告書は、いまでもバランススコアカード(BSC)の戦略マップとスコアカードの演習ケースとして使わせていただいている。「うまさと鮮度」の品質戦略と「社会的責任」の環境戦略で、売上高営業利益率を高めていく戦略の策定と展開を目指した経営のシナリオは、筆者にとって印象的な経営モデルで、吾妻橋にある同社の戦略担当者へ取材をしに行ったものである。
 折しも筆者が勤務していたフィリップス社でもEFQM(欧州品質賞)をグローバルに展開をしていたので、日本におけるベストプラクティスとして、リコーの事例とともに社内会議で発表をしてこともあった。そのような経緯もあり、書店で同書を見つけたときには、躊躇なく購入をしてしまった。
 同書は、主にマーケティングやブランドの戦略について書かれているノンフィクションであるが、そのまとめとして、平野伸一社長へのインタビュー「ものづくりのイノベーションで世界へ」を紹介したい。平野社長は、同社が1987年発売のスーパードライを最後に目立ったヒット商品がないことに危機感を持ち、大幅な増収増益へと舵を切る必要があること、その為にはイノベーション(成長戦略)とコストリダクション(聖域なき構造改革)を経営方針とすること、などを社内で発表。販売シェアだけでなく、技術の優位性を各カテゴリーでNo.1になることで競争優位ポジショニングを確立し、それによって得た原資を次のイノベーションや商品戦略に回していく方針を打ち出した。
 イノベーションの事例としては、麦芽を増やしても糖質がゼロのまま安定する「最適点」を発見したのはイノベーションであり、その技術は糖質ゼロを維持しつつ麦の使用量を30倍に高めた「クリアアサヒ贅沢ゼロ」へと上市。
 また、コストリダクションはリストラなどのコストカットとは違い、従来は購買部門だけの取り組みだったのを、これからは商品設計からはじまり、あらゆる面において全社で取り組むことにより、大型商品が育てば、スケールメリットによる原価低減や製造・物流コストの効率化、つまり全社最適化経営につながっていく発想である。
 そして、海外ビール会社のM&Aを通じて、スーパードライやニッカウィスキーをグローバルブランドに育てる戦略も始まっているという。筆者が使わせてもらっているBSCも、そろそろ修正の必要があるようだ。

(出所:永井隆(2017)『アサヒビール30年目の逆襲』日本経済新聞出版社)

 

根強い集客力に見る100円ショップのBSC的考察

 国内消費の現場で100円ショップの存在感が高まっている。2019年度の店舗の増加数で100円ショップ大手4社の合計(310店)がコンビニエンスストア大手3社の合計(276店)を上回る見通しだ。スーパーなどが中核テナントとして誘致する動きも目立っており、小売業の力関係が変化しつつある。
 ちなみに、縦軸に「店舗数増加率」、横軸に「売上高増加率」で業界別のポジショニングをプロットしてみると、両方の因子ともスーパーやコンビニよりも高く位置にあるが、売上高増加率ではドラッグストアにかなわない。
 100円ショップの躍進の要因のひとつに、スーパーなどの誘致元の期待と満足が満たされていることにある。100円ショップで日用品を売ってもらい、誘致したスーパーは総菜や生鮮品の売りがを広げることができ、若い世代が来店してくれる客層の拡大を図ることができる。この場合、誘致するスーパーにとって100円ショップはビジネスパートナーとなる。
 二つ目の要因としては、台頭するネット通販への抵抗力もある。おしゃれな商品も増えて割安なので、送料もかからず、リアル店舗で選ぶ楽しさがあるということだろう。三つ目は、消費増税前後に消費者の節約志向の高まりもある。四つ目は、コストの安い海外での生産と商品輸入による低価格商品の提供である。
 その一方、成長する100円ショップにも課題がある。薄利多売のビジネスモデルなので、1商品あたりの粗利が小さいこと。そのため、人件費の高騰は他の小売業よりも重くのしかかる。そのため、人件費抑制のためにセルフレジやQRコード決済の導入も進めている。また、海外からの輸入が多いために為替相場の変動による調達コストの増加は、大きなリスクである。
 そのような100円ショップの経営目標をBSC(バランススコアカード)のフレームワークで書いてみると、以下のようになるのではないか。読者の意見を待ちたい。
<財務の視点>売上高の増大、営業利益の増大、1商品あたりの粗利の増大
<顧客の視点>来店者のリアル店舗購買満足度向上、誘致先満足度増大、若い世代の来店増加
<改善プロセスの視点>来客数増大、若年世代向商品充実(割安でおしゃれな商品など)、節約志向対応商品・顧客価値の増強、人件費抑制施策実践(レジ業務省力化など)、為替変動リスク対応策実施(調達コストなど)
<経営及び組織・個人能力の視点>ドラッグストアなどのベンチマーキングによる成長シナリオの見直し

 (出所:日本経済新聞、2019年7月13日、11面)