高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

磨くべきは虫の眼

 日経ビジネス誌の記事を読んでいたら、「編集工学」という言葉が目に飛び込んできました。その記事とは、編集工学者である松岡正剛氏の巻頭言談話のことで、彼は編集工学の立場から、情報が経済や社会にもたらす影響を考えてきたといいます。編集工学研究所の安藤昭子氏によれば、前出の松岡氏が編集工学という考え方を創始し、同時に編集工学研究所を創設したとのことでした。編集を非常に広義な意味で捉え、私たちを取り囲む情報を取り扱う営みはすべて編集であり、その編集の仕組みを明らかにし、社会に適応していける技術として構造化し、体系化していったものを編集工学と呼んでいます。
 松岡正剛氏の談話の中に、「小さいものを見る力」と「大きい数値」についての見解が述べられています。筆者なりの受け止め方として、小さいものを見る力が備わっていれば、その小さな観察の事実から、大きな事象が洞察できるという「力」と理解しました。そして、小さなところに亀裂が入り、それが大きなことにつながるというようなことを洞察する視点が、徐々に失われているのではないか。そんな松岡氏の危惧が感じられる記事でした。また、同氏は、「1羽の渡り鳥が落ちたという事実から、農薬や化学物質の危険性を訴える本を書いた米国の生物学者」の例も紹介しています。
 ISOマネジメントシステムの認証審査をしている組織の方々が良く話してくれる言葉のひとつに、「企業の審査では、虫の目と鳥の目で見ていくべし」というものがあります。物事の全体像を掴む視点(鳥の目)と、細かな部分を見て洞察していく視点(虫の目)とを併用しながら、そこに根本的な課題や機会を見出していく取り組み姿勢が必要とのことでしょうか。磨くべきは虫の目であり、そこから鳥の目で俯瞰した立ち位置で、組織の進むべき方向と目標を示唆できるような、いわゆる経営に資する審査が実践できるというべきでしょう。
 経営戦略が堅牢な力学的計算の上に成立しているとすれば、その計算の数式の一要素が欠けると、実現は阻害されるわけです。企業が戦略を立案するとき、小さくても、大きくても、その情報の価値の厚み(量の指標ばかりに目を奪われることなく厚みの指標が重要)に注目し洞察すべきことを、松岡氏は指摘していると思われました。

(参考/出所)
・松岡正剛「大きい価値がもてはやされる時代、磨くべきは小さいものを見る力」『日経ビジネス』、2021年03月29日号
・安藤昭子「変化を味方につける創発型チームの作り方」、2018年11月22日講演https://logmi.jp/business/articles/321144