高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

無形資産価値とバランススコアカード(BSC)の再考

 およそ5年ほど前の話しである。東京と大阪の会場でISOマネジメントシステムに関係するプロジェクトの調査結果を、バランススコアカード(以下、BSC)のフレームワークにまとめて報告会で発表したことがあった。

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  報告会当日はBSCとは言わずに「経営戦略展開表」と名付けていたが、約100人くらいの聴衆からは好評をいただき、とくにBSCの4つの視点の考え方や因果関係は、ISOマネジメントシステムの領域で活動されている方々にとっては新鮮な興味を持たれたようで、報告者としては気分良く会場を後にしたものだった。
 その後、いくつかの企業の方々からお問い合わせをいただいたが、その多くは財務目標と非財務目標の因果関係と、それを実現する指標の策定についてであった。ごく簡単に言ってしまえば、無形資産価値に該当する非財務活動を如何に見える化し、有形資産価値に相当する財務目標の達成につなげられるのかといったものであった。そのような非財務指標を作れるガイドが社内にあればな、という思いが伝わってくるメッセージが多かったのである。
 その記憶もだんだんと薄れてきた今月(2016年6月)になって、日本経済新聞に「人」や「企業風土」という目に見えない無形性の資産を、どのように捉えて先を見通すのか、どういう新しい評価の尺度を考えていくべきなのか、という課題を投げかけた記事が目にとまった。その記事を要約してみると、
・外的要因に影響されず好業績を続ける企業はどこが違うのか。
・その執筆者らの調査では、それらの多くの企業では経営の目的に「働く人の幸せ」や「社会への貢献」といった精神を軸に据えていること。
・その精神から生まれる3つの無形資産は、いわば「共感資本力」と呼ぶべき源泉で、①自社が大切にする価値観を共有できる経営理念力、②社員のヤル気を高める人財育成力、③社員同志・取引先・地域社会などとの関係性を育む信頼形成力、が挙げられる。
・利益を生み出すには、他社と違う取り組みをしなくてはならないが、かつてはお金を調達して設備を拡充し、効率性を高めることが「違い」を生んだが、モノ・サービスが充足し情報やノウハウが瞬時に飛び交う今の時代は、お金や設備そのものが違いを生むことはない。
・むしろ、お金で手に入れることができない人間の発想力、知恵や工夫、お客様を感動させる心などが必要であり、「違い」を生む源泉は「人」や人の強みを引き出す「組織風土」の中に存在する。
・よって、お金の出し手である銀行や投資家にとっては、目に見えるものを評価する従来の尺度で融資先の新たな資金需要や投資先の発展性を測ることの陳腐化を意味し、新たな評価尺度が求められる。
といった内容であった。(以上は「日本経済新聞2016年6月2日夕刊」による)
 改めて以上のことを考えてみると、そこにはBSCのフレームワークを想起させるものばかりである。しかしながら、人や組織の能力(学習と成長の視点)だけがあっても片手落ちであり、それらがプロセス変革成果や顧客評価向上を押し上げ、ひいては財務や戦略の目標達成やビジョンの実現に近づけるようになることが不可欠である。いわゆる「全体最適化経営」なのである。
 ちなみに、最近のISOマネジメントシステムの審査で出合った某チームリーダーが、BSCの4つの視点を引き出してきて、経営の考え方を突き詰めれば、このBSCの4つの視点に集約されるでしょう、と呟いていたのが嬉しかった。

(以上)