高橋義郎のブログ

経営品質、バランススコアカード、リスクマネジメント、ISO経営、江戸東京、などについてのコミュニティ型ブログです。

全体最適化経営の視点から見る価値連鎖全体の価値創造の最適化

 近頃のメディアや論文では、題名にAIというキーワードを使った記事や執筆が多く見られるのは、昨今の時流というべきものであろう。最近も、一般社団法人日本品質管理学会の学会誌『品質』を眺めていたら、「サービス工学xAIと品質向上」というタイトルの招待論説が目に飛び込んできた。その中で興味を引いたのは「価値連鎖全体の価値創造の最適化」という項で、全体最適化経営の視点から、その内容に惹かれた。
 執筆者の岡田氏によれば、三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)を考えてみると、「買い手よし」の重圧が強すぎる為、売り手の疲弊・低生産性が起こることがしばしばあるという。つまり、顧客価値創造のみに近視眼的になりすぎると、従業員価値や社会価値がないがしろにされてしまうリスクがある。そして、三方よしの実現が困難な理由として、個別企業と当該企業が関与する価値連鎖との相対的な関係性が変わってきたことを、この論文の執筆者は指摘している。
 多くのサービス産業で、一社完結型の価値連鎖を構築することは困難になり、むしろ、当該サービスの価値連鎖は長く、多種多様な利害関係者との連携や協調が欠かせない時代になっているという。もしそうであれば、我が国のサービス産業は、伝統的な産業・業界による区分と競争という視点だけではなく、産業・業界を超えたサービス価値連鎖単位での協調と最適化の視点も重要となると述べている。そして、産業・業界を超えたサービス価値連鎖単位で、AI時代の新たな三方よしの在り方を、考えていくべきであるとしている。
 さらに、個別企業による三方よしの実現が困難であり、従業員価値や社会価値がないがしろにされてしまうリスクが生じている典型例は、日本の物流価値連鎖であるという。物を届けるという社会的機能は欠かせないものであるが、現代の物流は、運輸業・倉庫業から宅配業・小売業を含む価値連鎖全体として消耗し、疲弊し、脆弱になっている社会課題に対して、筑波大学は他の組織と連携し、「サービス工学xAI」の連携体制を構築し、日本の物流価値連鎖の強化に貢献する研究開発を実施することにしたとある。
 「買い手よし」の過度な重圧が再配達問題などのサービスシステムの非効率性を生み出していること、過剰な対人接客による売上最大化(売り手よしではなく、売れればよし)に囚われすぎている現状、などにスポットを当てている。
 以上、個人的な勉強のために、抜き書きさせていただいた。

(出所:岡田幸彦「サービス工学xAIと品質向上」『品質』日本品質管理学会、Vol.49, No.3, 2019、pp.7-8)